「ビズラボ」とは?
ビズラボは、ビジネスリーダーを対象とした事業コンセプトの創出を目的に、講座と共創を試行する場。一般応募者から選出された20名がおよそ3カ月、それぞれの課題に取り組みます。プログラムは大きく分けて、座学形式の講座、リアルツアーとグループワークの3つで構成されています。
まず、講座では異業種連携の進め方、ビジネスモデル、知財戦略など新規事業開発に必要な知識を短期集中で学びます。講師を務めるのは、システム・インテグレーション株式会社 代表取締役の多喜義彦さんです。多喜さんは、製造業を中心とした新事業開発を、40年にわたり3,000件も支援してきた実績をお持ちです。
多喜さんの講義は市場変化の潮流から、共創のエピソードまで幅広いものでした
(提供:日経BP社「リアル開発会議」)
リアルツアーは、事業開発の現場を観察し、新規事業のリーダーから直接出会い、対話を行うプログラムです。新規事業の開発を専門に活躍されている野村総合研究所 新規事業コンサルタント 石井宏治さんのコーディネートのもと、さまざまな分野で事業創造の推進リーダーとして活躍する方を訪問しながら、事業成功の秘訣や取り組む際の心構えをヒアリングします。
今回は、球場一体型のスポーツクラブやシナプソジー(脳を活性化するプログラム)など、ユニークな発想のサービス開発を進めているスポーツ事業運営会社の株式会社ルネサンスと、ポケットナイフの製造からスタートし、現在ではキッチン用や生活用から、医療用、業務用まで1万アイテム開発・販売している貝印株式会社を訪問しました。
最終報告会の様子。多喜さんから厳しい指摘が飛びます(提供:日経BP社「リアル開発会議」)
プログラムの最後となるグループワークでは講義とリアルツアーで得たノウハウをもとに、チームでアイデア出しやビジネスコンセプトを検討、最後にプレゼンテーションを行います。この最終プレゼンテーション準備のために、自主的に集って検討を行ったり、徹夜して資料をそろえたりするグループが多く現れ、プレゼンテーション当日の参加者全員の熱気は最高潮でした。
今回は、メーカーを中心に新規ビジネス開発に携わる企画、技術、知財担当者から国家公務員、経営者までさまざまな背景をもつ参加者が集まりました。みなさんの目的は、新しい事業開発のための技術交流、行き詰まりを感じる現在の開発に対する打開策の模索、新たに事業開発部門に配属されてこれらの活躍を期待されて派遣されたなど、今抱えているビジネスの課題を解決するため。不確実性の高まる市場環境を見据えて、リーダーシップを発揮しながら、果敢に市場開拓を推進するヒントを得たいという方が多かったように思えます。
共創を実現させるための思考法 「Field Alliance」
講義では、多喜さんが新規事業開発の勘所を伝授します。そのなかでも繰り返し重要だと強調していたのは共創を実現するための「Field Alliance(以下 フィールドアライアンス)」という考え方です。
「フィールドアライアンス」とは、多喜さんが考案した「異業種で“事業の場=フィールド”を共有し、他社が侵入できないより大きな場とすることを目的とした連携スキーム」のことで、既存の商品やサービスをアライアンス企業のフィールドに展開して相互にニーズやシーズを共有することで新たな事業や商品の展開、事業機会の飛躍的な拡大を目指すことを目的としています。
ある部品メーカーでは、コストカットと品質管理の努力によって、競争力の高い製品をつくりあげ、その商品を特定業種向けに販売していました。そこに「フィールドアライアンス」の考えを持ち込み、異業種への提供を実施したところ、今までと比較して10倍の価格で販売が可能になったといいます。この事例は極端な例ですし、実際すんなりといくはずはないのですが、業種の際を越えた瞬間に価値が大きく変わる可能性があることを示唆しているのではないでしょうか。
さらにもう1つ、重要性を強調していたのが、このような新しい可能性を模索するにあたってのルール、「Noといわない」「責任のない開発」の2つです。
「Noといわない」「責任のない開発」がグループワークを目覚めさせる
グループワークは多喜さんによる公開コンサルティングからスタートします。多喜さんが、インタビューアーとなって、参加者の企業概要や課題を聞き出し、即興でビジネスのアイデアを抽出します。そのアイデアを参加者によるグループワークで膨らまし、1カ月半後の最終報告に向けてビジネスコンセプトに仕上げていく流れです。
グループワークのルールは、「Noといわないこと」、「責任のない開発」の実践です。これは、ビズラボの開始から修了式まで、常に伝え続けられる考え方の方針でもあります。他の参加者からNoと言われないので、アイデアの芽が摘まれることはありません。「それいいね」という肯定のスパイラルによって脳が活性化されます。
また、この段階では「責任がない」ので、実現性/失敗のリスクを問われることがないため、それは本当につくることができるのだろうか、投資に見合う成果が得られるのだろうかという思考のプレッシャーから解き放たれ自由にアイデアを出すことができるのです。
この考え方を通常の業務に置き換えると、アイデアを発散させるフェーズでは「Noといわないこと」と「責任のない開発」を検討時のルールとして持ち込み、ブレインストーミングを行うことで、アイデアがより膨らむのではと感じました。
後編では、このアイデア創発のきっかけから抽出されたサービスコンセプトが生まれたのか、そしてこのビズラボから考えられる共創創発のヒントをご紹介します。