競争&共創の場が参加者の成長を促す
当初、編集部は取材を目的にMedical × Security Hackathon2015に参加しましたが、競技を取材するなかで富士通チームに巻き込まれ、最終的にはチームメンバーとして作業の一部を担当することになりました(笑)。運営ルールとして禁止されていること以外、基本は何でもありのハッカソンらしい展開です。
全9チームでの競技となったアプリ・サービス部門において、編集部が協力したチームは3位でした。アウトプットは、2020年のオリンピックイヤーを見据え、国籍や言語を問わず直感的にスマホから119番緊急通報ができるというアプリ。「知らない国や土地において緊急通報ができずに困っている人を助けたい」という思いで開発されました。
優勝を目指して開発を進めただけに、3位という結果はチームメンバーにとっては大変悔しいものでした。しかし、医療分野で活躍する方やビジネス経験豊富な審査員の方々からフィードバックをもらったり、優勝・準優勝したチームと自分たちのアイデアや成果物の差を分析したりすることで、自分たちにどのような視点やアウトプットが足りていなかったのかが明確になりました。勝ち負けに一喜一憂するのも競技であるハッカソンの醍醐味の1つですが、負けた場合でも多くのことが学べるのがハッカソンの良いところですね。
3位となった富士通関係者チーム
そのほか、今回のハッカソン取材を通し、他の参加者からも多くのことを教わりました。いくつかご紹介したいと思います。
「看護の現場にいるからこそ見える課題」でもぎ取った高評価
看護の現場にふさわしいICTサービスの企画を目的に参加された、看護師の小林美穂子さん。“医療・介護を受けている人に最大の利益を与えられるようなサービス”を考えるなかで、医療をテーマとしたイベントを探し見つけたのが、このMedical × Security Hackathon2015。自身の仕事とも関係する医療関係ハッカソンへの参加ははじめてだったようですが、勇気を出して飛び込んでみたそうです。
アイデアピッチ/チーミングでは、看護の現場で発生する患者さんの切実な課題を訴え、その解決をともに行ってくれる仲間を募りました。
病気による失禁のため、病院にはおむつを必要とする患者さんがいます。失禁によっておむつが汚れた状態が続くと、患者さんの皮膚トラブルにつながることから、失禁後はできるだけ早くおむつを取り替える必要があります。しかし、現状の確認手段としては看護者による定期的な確認が主となっており、失禁とその確認に対するタイムラグが生まれています。また、定期的な確認は患者・看護者双方にとって負担が大きいため、この問題をICTでなんとかしたい! 小林さんは参加者へ訴えました。
彼女の強い想いに共感したエンジニア(なんとGUGENにも参加していた上田浩さんの姿も!)や研究者たちがチームメンバーとして加わりました。開発の途中でデザイナーも助っ人として加わり、当初のアイデアやサービスイメージが洗練されていきます。最終的には、患者さんのおむつの水分を検知し介護者へ通知する「Wet Catch」というサービスができ上がりました。そのアウトプットは、プロトタイプの完成度や課題に対するアプローチ、プレゼンテーションなどが評価され準優勝となりました。
小林さんは、「デザイナーやエンジニアとともに課題解決にのぞむことで、アイデアやサービスの本質が明確化され、かつプロトタイプとしてかたちになったことに大きな可能性を感じるなど、自身にも大きな学びがあった」と話します。本人は「アイデアを実現する技術力がないため、実現に向けて必死にお願いするしかなかった」と話しますが、結果として、そのような姿勢が他の人たちの共感を集め、共創の輪をつくっていったのかもしれません。
準優勝(2位)に輝いたチーム。写真右が発案者の小林さん
優勝の栄冠に輝いた、10代の学生チームが語るハッカソン
今回のハッカソンで見事優勝の栄冠を勝ち取ったのは、会津大学の学生3人(なんと平均年齢19.5歳!)で編成されたチーム。そのアイデアは、緑内障検査のハードルを低くするためのもので、ゴーグルのなかに投影される検査用の特定イメージを注視し、イメージどおりに見えない場合は検査者に緑内障の可能性があることを教えてくれるというもの。日本において失明原因の第1位を占めるのが緑内障であり、少子高齢化の進む日本では大きな社会問題になる要素をはらんでいます。
メンバー全員が学生ということで、医療行為経験やビジネス経験がないという点については、競技中にさまざまな分野のプロフェッショナルである審査員の方々にアドバイスをもらうなど、積極的にアプローチする姿が印象に残りました。最後は、持ち前の技術力と見事なプレゼンテーションにより、審査員の方々から「医療従事者の立場からも、すぐに使いたいサービス」とコメントをいただく結果に。
すばらしいプレゼンテーションを披露してくれたこのチームのリーダーである丸山滉太郎さんいわく、実はプレゼンテーションが苦手だったそうです。別の機会に参加したハッカソンで、プレゼンテーション時に悔しい思いをした経験から、練習を重ねることで今回の見事な結果を手に入れました。また、彼にとってはハッカソンに参加することで、大学では得ることができない経験をし、それが学業のモチベーション向上にもつながっていると言います。学んでいることと社会との接点を確認する場としても、ハッカソンは機能するのかもしれません。
優勝に輝いたチーム。写真中央がリーダーの丸山滉太郎さん
2日間と短期間ではありますが、Medical × Security Hackathon2015には、「競争を通じた仲間たちとの切磋琢磨の場」という側面と、“困っている人たちのために何かをしてあげたい”という想いを持った人と、それを支える仲間たちの創発の場」という側面の2つが見られました。
ハッカソンを通じて生まれた新たな関係性。そこから、新しい医療の形が生まれてくるかもしれない――。Medical × Security Hackathon2015は、そのような期待を抱かせる素敵なハッカソンでした。