無責任から責任が生まれる。“ビズラボのパラドクス”は具現を促す
ビズラボに参加して特におもしろいと感じたのは、「無責任が責任を生む」という“逆説的な体験”を味わえたことです。参加者はみな、「無責任に出したアイデアに対して、勝手に責任を感じながら具体化に向けて動こう」としていました。無責任が責任を生む、勝手ながらこの状況を「ビズラボのパラドクス」と呼んでいます。
グループワークの様子。お互いの専門をもちよります(提供:日経BP社「リアル開発会議」)
あるチームは、「日本ジュール協会」というサービスコンセプトを検討しました。これは、ウェアラブル端末を通じて人間の日々の活動熱量を取得し、動いて発生した熱量をポイントに還元して個人の健康増進を支援するものです。このチームは、熱量をポイントに変換することをモチベーションに運動を熱心に行うユーザーを演じながらプレゼンテーションを展開、これによってコンサートで活用することでファンの思いを可視化することに使えるのではないかなど、可能性を広げる議論に発展しました。
私が参加したチームでは、日替わりで外装とメニューが変わるレストラン「日替わり店舗」というサービスのアイデアを発表しました。料理人が独立する際、「腕試しのできる場が欲しい」というニーズを軸にして、出店をスモールスタートするための店舗を日替わりで提供するというコンセプトです。料理人が腕を磨き独立するプロセスをお客さまが応援してマイシェフを育てるという体験ができるとともに、独立後のロイヤルカスタマーになることを狙いとしています。
プロトムービーを使ったプレゼンテーションの様子(写真左:筆者)
このアイデアは、日替わりで内装を変更させるというのがアイデア実現の要となります。プロジェクションマッピングを活用し「どの程度外装が変わると、場の雰囲気が変わった印象を与えるのか」という疑問を体感してもらうため、プロジェクターを使って会議室の様相を変える簡単なプロトムービーをつくりました。ビフォーアフターの差が分かりづらく不十分なプロトタイプだったのですが、少なくとも場の状況の変化の有効性を検証することができたと思っています。
そのほかのチームも、商標獲得を視野に入れサービス名称をつけるチームなど、資料によるプレゼンテーションで終わらず、具体化に向けた案を示しながら最終報告に臨んでいました。誰しもが自然発生的、つまり「無責任に出たアイデアだからこそ個人が責任を持って具現化する」という思いに駆られていたのではないでしょうか。
ビズラボは、ビジネスリーダーを対象とした事業コンセプトの創出を目的とした講座と共創の試行の場です。最終報告の結果として事業コンセプトの共創は実現されたと思います。この取り組みを通じて得られた気づきをどうやってビジネスにつなげるのか、そして出てきたアイデアをどう具現化するのかが参加者の今後の課題です。
共創に必要なのは「チャレンジングなテーマ」と「実現に向けたコミットメント」
「共創」とは、当事者同士の補完に収まらない価値を創出する行為だと認識しています。これを前提にすると必要な条件は、「当事者同士が取り組む意義のあるチャレンジングなテーマであること」、「顧客に対して新しい価値を提供するために当事者同士が強く実現に向けてコミットすること」なのではないでしょうか。今回、ビズラボで提唱された「責任のない開発」と「ビズラボのパラドクス」は、これらの共創の要件、特に実現に向けたコミットを生み出すことに有効だと感じました。
参加メンバーで集合写真(筆者:最終列の左から3番目)(提供:日経BP社「リアル開発会議」)
さらに、共通のプロセスを経験したことで、今回参加したメンバー間のつながりはとても強力になりました。今回のターム終了後、参加メンバーの企業のビジネスアイデアを検討するチームが立ち上がるなど、ビズラボから生まれたコミュニティーから次の取り組みが開始されています。共創を真に実現させるには労力と時間がかかりますが、今回の経験を糧に着実に推進していきたいと思います。