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人気の再開発エリア、居住者のつながりをつくる挑戦 ──川崎市中原区武蔵小杉・再開発地域のコミュニティーづくり(前編)

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長期的なまちづくりに必要なのは居住者の特性を反映した「共通のテーマ」 ──川崎市中原区武蔵小杉・再開発地域のコミュニティーづくり(後編)

大規模開発で工業地域から人気の「住みたいまち」へ

近年、特に都市部の課題として「隣同士でも顔を知らない」といった、居住者のつながりの希薄化が問題視されて久しい。そんななか、震災をきっかけとした防災意識の高まりや、子どもや高齢者の見守り体制の重要性が広く認識され「地域コミュニティー」の価値が再び見直されはじめている。過去あしたラボでも、山崎亮さんインタビューや震災復興の過程で新たなコミュニティー形成に取り組む神戸などを紹介してきた。

地域の居住者による活発な交流は住環境を良好にするだけではなく、まちの魅力向上や活性化につながる。再開発により従来からの居住者と新たな居住者が生活する武蔵小杉駅周辺地域は、どのような変遷をたどってきたのだろうか。

再開発プロジェクトが進む武蔵小杉駅周辺地域は、タワーマンションと複合商業施設が建ち並び、JR南武線、東急東横線、JR横須賀線(2010年開業)が交わり交通の利便性も良いことから、首都圏「住みたいまち」のアンケート調査で上位に入ることが多い。

もともと日本の高度経済成長を支えた工業地域だったが、21世紀に入ると工場の撤退が相次ぎ、その跡地につぎつぎと建設されてきているのがタワーマンションや高層マンションだ。2007年から開発がはじまり、最高層が地上59階におよぶタワーマンション群に加え、商業施設、公共施設が新設され、かつて工場とグラウンドだけだった駅前の風景は一変した。10年間で約6,000戸のマンションが供給され、人口は約1万5,000人増えたことになる。

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これから再開発が進められる北口エリア周辺の整備方針を表した図
(「小杉駅周辺地区小学校新設基本計画書」P10より抜粋)

プロジェクトはいまも進行中だ。北口エリアには住宅だけでなく、商業施設、小学校が新設され、病院の建替も予定している。1つのまちが誕生するくらいの勢いとなると新たな居住者の増加により地域のコミュニティーづくりが課題になってくる。

地域をつなぐ“エリマネ”とは何か

再開発計画が実行に移されようとしていた2005年、この地域の一体的な開発・整備を目指していた川崎市まちづくり局の主導で各部会が開かれた。町会やボランティア活動の人たちによる市民部会と商店街を中心とする商業者部会、建設業者を中心とするデベロッパー部会。それぞれの立場から、マンションが新築され新しい居住者が入って来たときにコミュニティーをどのようにつくるか、という課題を話し合った。

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NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント理事長 安藤均さん

その結果2007年に設立されたのが、「NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント(以下エリマネ)」だ。地域の居住者や企業、市民団体などに横のつながりをもたらし、地域の居住者主体のコミュニティーづくりを促す事業を運営する組織で、1世帯月額300円、年間3,600円を各マンションの管理費から徴収し、活動の原資にしている。

エリマネ理事長の安藤均さんは「もともと私も地元の人間ですが、当初理事は地域の居住者を中心とする地元の方々などが務め、マンションが1つ建ち、2つ建ちするうち、マンション管理組合から新しい理事が1人、2人と増えていきました。発足当時はこんなに大規模な再開発になるとは誰も予想できませんでしたから、やはり行政の支援がないとはじまらなかったと思います」と、エリマネ設立時からの経緯を振り返る。現在の理事20名のうち、ほぼ半数が新築のタワーマンションの居住者。会員は、9棟約5,000戸を数える。

2013年には武蔵小杉周辺地域におけるコミュニティーの現状や課題を把握するため、マンションや町内会・自治会、NPO法人や商店街など、関係主体に対して中原区のまちづくり推進部地域振興課によってヒアリング調査が行われた。

その結果、マンション居住者は地域情報の入手や子育て環境、防災対策に関する情報を求めていることがわかった。また、町内会・自治会やNPO法人はそれぞれ独自に居住者同士の交流を促進する活動をしているものの、運営する人材や資金面等で、課題があるのが現状だ。

エリマネはこのような地域の取り組みや問題意識を広く把握し、関連団体との連携を促す存在でもある。

地域の居住者をつなぐコミュニティー活動

エリマネが運営するコミュニティー活動は多岐に渡る。「パパママパークこすぎ」は乳幼児の親の交流サロンで、参加者は年間1,500人を超す。毎月1回の「地域清掃活動」や、ボランティアで運営され、高層マンションならではの防災対策を講じる「防災ワーキンググループ」、自然や文化などの地域資産を学び、地域の課題を居住者自ら発見し解決する「こすぎの大学」、年2回の機関誌「こすぎの風」の発行などがある。

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エリマネはさまざまなアプローチで居住者交流の場をつくっている
(提供:NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント)

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パパママパークこすぎの様子。イベントに参加しながら、お互いの育児の悩みを相談しあえる(提供:NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント)

とりわけ、2011年から開催しているハロウィンに合わせた「コスギフェスタ」は、仮装コンテストやスタンプラリー、ステージパフォーマンスなど、子どもたちを中心にとても賑わい、2014年はのべ5万人が参加した。模擬店や清掃ボランティア、安全管理ボランティアなどで商店街や周辺企業も協力し、マンション居住者と周辺地域の人々がふれあうきっかけの1つになっている。

「昨年ははじめて、大人向けに駅前通り商店街を舞台にしたイベントをコスギフェスタ内で実施しました」と安藤さん。「食べ歩きチケットを使い参加店で注文できる、というもの。新しくできた複合商業施設で武蔵小杉駅周辺地域は人気ですが、古くからの店でもいいところがたくさんあるのを知ってもらいたくて」

食べ歩きチケットは約600枚ほど売れた。タワーマンション再開発地域で、人なつっこいまちのぬくもりを残す商店街は貴重な資産の1つ。参加者の数は2013年は3万人、2014年は5万人と、「コスギフェスタ」への地域の人たちの関心はうなぎのぼりだ。第1回目は数百人規模のイベントにすぎなかった。これもエリマネが地道にコミュニティー活動を続けてきた成果だろう。

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思いおもいの仮装をした子どもたちで盛り上がった(提供:NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント)

マンション居住者も横のつながりを求めている

「武蔵小杉駅周辺地域の新たな居住者は30〜40代の子育て世代が多く、たとえば子育ての視点でみると、みなさん横のつながりを求めています。“パパマママパークこすぎ”を通じて友だちが増えた、といった声を聞くと活動を続けていて良かったと思いますね」と安藤さんは話す。

2011年の東日本大震災は「防災」の観点からマンション居住者がコミュニティーの大切さを思い知るきっかけになった。

震災当日、横須賀線武蔵小杉駅近くのレジデンス・ザ・武蔵小杉だけがなぜか停電しなかった。通常であれば管理組合の規定によるセキュリティの関係でマンション居住者以外は建物内に入れないが、偶然にもエリマネの防災ワーキンググループに参加してつながりを持っていたため、1階のエントランスを全面開放し、緊急用の毛布なども支給。

ふだんから地域居住者同士の横のつながりがあることがいかに大切かを居住者が意識するきっかけとなった出来事だった。

コミュニティーの希薄化という課題に対し、多面的なテーマのコミュニティー活動を地道に続けることで人や地域とつながる機会づくりを進めてきた武蔵小杉駅周辺地域。今後も開発が続いていくなかで、どのような構想のもとにまちづくりを進めていくのか。後編では行政側の関係者に話を伺い、このまちの将来像に迫る。

長期的なまちづくりに必要なのは居住者の特性を反映した「共通のテーマ」 ──川崎市中原区武蔵小杉・再開発地域のコミュニティーづくり(後編)へ続く

関連リンク
NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント
平成25年度小杉駅周辺の新たな魅力づくり推進事業報告書(概要版、PDF)


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