学生、社会人、立場を超えて“これからの仕事”を考える ――あしたラボUNIVERSITY1年目の挑戦(前編)
まず自身で課題を設定するところから
11月14日に開校宣言を行った「あしたラボUNIVERSITY」は初年度のキックオフイベントとして、まず12月15日にライフハッカー[日本版]と学生限定の共催イベントを企画。「ぼくらの仕事のつくり方 ~これからの“働く”を考える~」として、多様なゲスト4名が登壇、48名の学生が参加した。2015年に入ってからは上智大学経済学部(1月13日開催)と大分大学(2月4日開催)で、富士通総研 黒木昭博さんをファシリテーターにそれぞれ約30名の学生に向けた「出張授業」を開催した。
2014年度のあしたラボUNIVERSITYスケジュール
2月後半には「あしたラボUNIVERSITY」のコアイベントとなるアイデアソン「あしたのまちHack」を実施。関東(2月19~20日開催)、関西(2月26~27日開催)の会場には、それぞれ約40名の学生と富士通社員約15名が集結。このプログラムでは「課題設定からはじまる、“これからの仕事のつくり方”」や「身近な社会課題の解決を視野に入れながら、それを自分ごとにする」、「学生と社会人が対等な立場でディスカッションする」など多様な要素が盛りこまれた。
アイデアソン 課題選考会の様子。事務局スタッフ総出で選考を行った
さらに、アイデアソンへの参加を希望する学生に対しては、「あなたが感じるまちの課題は何ですか?」をテーマとした事前課題を設定。その結果、日本全国から約400ものエントリーが集まった。梅津さんはその狙いを「インターンシップとして参加してくる学生さんもいるなかで、『自分が選ばれてこの場に来た』ことを感じて欲しい考えた」と話す。なかには映像作品にまで仕上げた学生も。運営事務局は1つひとつの作品を読み込み、1つずつ「自分ごと」がどこまで本人が腹落ちし、深く考えているか、それが課題から伝わってくるかを確認していった。
“自分ごと”はこんなにも心に響くんだという驚き
参加者を選ぶにあたっては、事務局全員が集まり、審査基準を設けて選考を行った。通ったものとそうでないものを違いを一言で表すと「自分ごとで考えているかどうか」。「“自分ごと”で考えられているものはこんなにも心に響くんだ、とあらためて感じさせられた」と浜田さんは話す。
アイデアソン選考会では学生から提出された課題1つずつじっくり見ていった
その「自分ごと」への視点は、その後のアイデアソンのプログラムにも踏襲された。アイデアソンは『私のまちの魅力を100倍にする』が大きなテーマとなり、「自分で課題を発見してもらうことに重きを置いた」と川口さんは続ける。
「アイデアソンを通して感じ、考えてほしいと設定したテーマ“これからの仕事づくり”は、誰かが問いを出し、それに対して言われた通りにつくるのではなく “そもそもの課題はなんだろう?”と、課題追求からはじまるもの。それがあるから、みなで一緒に解決できるのだと考えています。だから事前課題ではその課題をどこまで自分ごとできるかを重視しました。そこを突破した人が参加したアイデアソンでは、参加者が嫌になるほど、“課題は何?”と考えを深めてほしかったんです」
忘れかけていた“野心”を思い出した
こうして開催されたアイデアソンには、富士通社員も学生と同じ立場で脳に汗かくメンバーとして参加した。採用センターの永田久美子さんは、梅津さんとともにプロジェクト運営に加わりながら、関西アイデアソンでは、1人の参加者として参戦した。参加社員の立場から、次のような感想を持ったと言う。
富士通株式会社 人事本部人材採用センター 永田久美子さん
「私は社会人1年目ですが、忘れかけていた“とがっている感覚”を思い出しました。学生って、野望や夢みたいなものを持っているじゃないですか。この1年で、いつの間にか忘れてしまっている自分がいた。学生さんと対等な立場で話せる場に身を置き、そういう気持ちを思いだして働かなきゃいけないと思ったし、そういう姿を学生さんにも見せていきたいと思います」
(写真右から2番目)アイデアソン関西大会に参加した採用センターの永田さん「私自身初心に帰るとともに、それを参加した学生に教えられたように思えます」
また、採用センターメンバーの立場からも「画一的な採用になりがちですが、こういうプロジェクトがきっかけになって、世の中が少しでも変わっていくようなアクションを起こしていきたい」と、意欲を見せた。
全員がフラットにものを言い合う環境づくり
アイデアソン当日、イベント運営のコアメンバーはオリジナルTシャツに身を包みイベントを運営。ネームプレートには「戦略企画室」「採用センター」「FRI」などの“肩書き”はなく、社員も学生も分け隔てなく、積極的に交流を深めた。
どの会場でも学生と社会人から満足度の高いアンケート結果が得られた
「所属部署や肩書きなんて気にせずにその場にいたのが、私たちも楽しめた一因だと思います。イベントが終わって雑談するまで、学生さんたちに採用センターの人間だと気づかれなかったほどで(笑)、あくまで“私”として参加できました」(梅津さん)
梅津さんは運営スタッフ2名とともに、関東大会最優秀賞チーム“ばすっち”のワークをサポートした。しかしチームメンバーにとっては誰がどんな立場にいるのかなんて関係がなく、あくまで梅津さんたちは“その場にいた富士通の人”。その場はまさに、社員と学生が一体となった“共創コミュニティー”だったと言える。
3月に行われた成果発表会後の参加者からのアンケート結果を見ると、その思いは参加者、そして見学者にも確実に届いたようだ。当日の感想をいくつか紹介する。
・自分の意見が正しいとは限らないというのを感じた。いろんな人と出会えて意見をみがいていったことで、どんどん新しい意見を出すことができたし、自分の弱点に気づけた。そしてここ数日だけで、人のつながりが学生・社会人問わず激増した
・ビジネスモデル(儲かるしくみ)や実現性について目がいきがちであるが、アイデアを出す、それを形にする上では理論(ロジック)より熱狂・熱望の方に偏ってもよいのかもと感じました。参加者の皆さんのパワーを感じました
ここで紹介した感想は1例にすぎないが、この結果を見て、梅津さん、浜田さん、川口さんはこの活動の意義が“キャリア支援”だけでなく、考え方や生き方も大きく変える機会になったのだと再認識したという。
2015年度も、ともに学びあう場をつくる
2015年度の「あしたラボUNIVERSITY」は、5月14日~15日で開催される富士通フォーラムでキックオフイベントを予定している。浜田さんは「これまで富士通フォーラムは主に顧客企業のビジネスマンをターゲットにしていましたが、“共創”という文脈のなかに、これまで以上に学生さんの力を組み込んでいきたい」と、今年度の意気込みを話す。
この日の取材に集まった4名は、インタビューを終えてもそのまま今年度の企画の話に花を咲かせていた。「関東・関西だけではなくてアイデアソンに普段触れる機会の少ない地域にも進出してみたい」「別の特色のある他社とコラボしてもおもしろい」「出張授業の大学も増やして色々な専攻の学生さんと話してみたい」……。学生からも社内からもポジティブな反応が得られたことが自信となり、次期の活動はさらに輪を大きく、深くしていく予定だ。
最初は何も書かれていなかった横断幕は、成果発表会終了後ぎっしりとメッセージが詰まっていた
「あしたラボUNIVERSITY」は、まだ1年目を終えたばかり。3名は「今後も継続していくこと」を強調した。今回参加した1期生のメンバーが「あしたラボUNIVERSITY」の後輩たちとつながりを持ち、新たなイノベーションを生み出す――。そんな未来がくるのも、そう遠いことではないはずだ。