Quantcast
Channel: 共創 –あしたのコミュニティーラボ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 42

南相馬の土着藻類が日本を産油国へ導く?——藻類バイオマスエネルギーの可能性(前編)

$
0
0

後編 南相馬発、被災地から次世代エネルギー産業を ——藻類バイオマスエネルギーの可能性

再燃する藻類バイオマスエネルギーへの期待

主として水中に棲息し、光合成を行う藻類。30億年をかけて進化してきた生物で、現在わかっているだけで4万種、まだ知られていない種は少なく見積もっても30万種といわれている。その機能や含有する有用物質には未知のところが多い。

この微細な藻類が生み出すオイルを石油の代替燃料に活用できないか。そんな研究が米国エネルギー省で開始されたのは1978年にさかのぼる。二度のオイルショックを背景として、政治経済の情勢に左右され、枯渇も懸念される石油へのエネルギー依存度を下げたい。それは人類全体の悲願でもあった。米国では1996年までプロジェクトは続き、日本でも90年代から基礎研究が行われたが、コスト面で採算ラインに乗せることが難しく、事業化への期待はしぼんだ。

だが近年、藻類バイオマスは次世代の再生可能エネルギーとして再び注目を集めている。背景の1つは地球温暖化の問題だ。バイオマスは植物由来の資源なので、化石資源由来のエネルギーや製品をバイオマスで代替することで温室効果ガスの1つであるCO2の排出削減につながる、とされている。

日本のエネルギーはおよそ9割が海外からの石油燃料に頼っているのが現状だ(出典:資源エネルギー庁広報資料から編集部作成)
日本のエネルギーはおよそ9割が海外からの石油燃料に頼っているのが現状だ(出典:資源エネルギー庁 平成26年度(2014年度)エネルギー需給実績(速報、平成27年11月発表)より編集部作成)

とはいえ、トウモロコシやアブラヤシなどの陸上植物をバイオ燃料に使うと、食糧と競合するし、耕作地を広げるために森林伐採し結果的にCO2吸収源を消失しかねない。そこで、陸上植物と同じように光合成を行い、代謝産物としてオイルを生成する水中の微細藻類にあらためて熱い視線が注がれるようになった。

「大きなきっかけは2007年でした」と振り返るのは、筑波大学藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター長の渡邉信教授だ。

筑波大学 藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター長 渡邉信教授
筑波大学 藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター長 渡邉信教授

「この年、藻類の単位面積あたりのオイル生産効率が陸上植物のそれに比べると数十倍から数百倍高いことをデータで立証した論文が初めて発表され、『ネイチャー』誌が“藻類、再び花開く”という記事を掲載したのです」

欧米を中心としてブームは過熱し、年間オイル生産量を過剰に見積もり2〜3年後には実用化できるなど非科学的な憶測も乱れ飛んだ。それを反省し2010年の第4回藻類バイオマスサミットでは、主催者が「夢を語るのはいい。しかし誇張はやめよう」とクギを刺したという。

健康食品や化粧品、畜産・水産飼料など幅広い用途

渡邉教授の呼びかけで、日本でも2010年に7名の研究者と15の企業によって「藻類産業創成コンソーシアム」が発足した。現在は80社の企業が参加して、それぞれのリソースを持ち寄り、藻類バイオマスの事業化へ向けて技術開発課題に取り組んでいる。

「将来的には持続可能な液体燃料の供給源として、藻類のポテンシャルは非常に高い。世界の研究開発情勢をしっかり捉え、前のめりにならず的確な技術革新を地道に続ける必要があります」と渡邉教授は話す。

研究開発が進む渡邉研究室
研究開発が進む渡邉研究室

藻類は、燃料以外にも有益な用途が幅広い。豊富な栄養素を持つことから、最近よく知られているユーグレナ(ミドリムシ)などのサプリメント(健康食品)は、1960年代からクロレラやスピルリナといった藻類で商品化が進んできた。抗酸化作用をもつアスタキサンチンやβ-カロテイン等のカロテノイド色素を利用した化粧品も多い。世界の化粧品市場の約10%には、藻類由来の成分が含まれているそうだ。

さらに今後は、畜産・水産飼料にも藻類の適用が期待される。「血液をサラサラにする人体に有用な栄養素、DHA(ドコサヘキサエン酸)などのω(オメガ)3脂肪酸は、食物連鎖によって魚に取り込まれます。海産魚はそれをつくる酵素を持っていない。だから養殖魚はDHAなどを生成する藻類を含んだエサで育てる必要があるのです」(渡邉教授)。藻類由来の高機能性バイオプラスチックも、将来性の高い低炭素の再生可能資源だという。

土着藻類によるバイオ燃料生産で日本が産油国に?

藻類バイオ燃料の事業化に向けて、渡邉教授が手応えを感じているプロジェクトが、東日本大震災の爪痕が今も消えない福島県南相馬市で進んでいる。津波に襲われて更地になった土地を利用し、1,000㎡の培養池で複数の土着藻類からオイルを抽出する研究だ。藻類産業創成コンソーシアムが福島県次世代再生可能エネルギー技術開発事業に応募して採択され、渡邉教授が会長を務めるベンチャー、藻バイオテクノロジーズ株式会社が実証研究に取り組む。

「これまでは増殖が早くオイルの生産効率が良い特定の藻類に絞って培養していました。この方法の課題は、藻類の特性に合わせた環境条件を整え、他の藻類が増えないよう管理するなど、コストと手間がかかること。特に日本では、気温の下がる冬は藻類の成長が止まり、オイルが生産できません。そこで発想を変え、単一種ではなく、もともとその土地の気象と環境の中で適応して棲息している土着の藻類を何種類も増殖させ、大量培養する方法をとったのです」(渡邉教授)

南相馬の研究開発拠点にある培養池の1つ
南相馬の研究開発拠点にある培養池の1つ

その結果、南相馬の寒い冬でも元気に生長する土着の藻類は周年を通じてたくましく育った。生産量は1㎡あたり1日30g。研究者の間で実用化を目指す最低の条件とされている20gを軽く超えた。なんといっても年間を通じて培養できる点が大きい。

しかし問題もあった。藻類は増えたものの、抽出できるオイルは重量のわずか5〜6%。燃料生産の対象となっている各単一藻類種では30%以上なので、これではいかにも少ない。

そこで、藻類からオイルを抽出する工程で高温高圧処理する「水熱液化」の技術を採用。これによって藻類中に含まれる有機物の30〜40%をオイルとして回収することに成功した。水熱液化でできたオイルは原油と同質であることから、バイオ原油と呼ばれる。「石油が何億年もかかり生成した条件を人為的に再現するわけです」(渡邉教授)。

渡邉教授

南相馬での培養・分離・抽出・精製までの全行程にかかる製造コストをもとに、事業化を勘案して10haの培養地を想定すると、現状ではバイオ原油1リットルあたり4,100円の試算になる。肥料の代わりに下水を使って下水処理の収入も上乗せし、少ない日射量を酢酸の添加で補い光合成を活発にすると、「水熱液化で酢酸もリサイクルするなど、各工程の技術改良を重ね最高にうまくいったシナリオでバイオ原油1リットルあたり100円を切り、最悪のシナリオでも1,000円強」と渡邉教授は見積もる。「この3年間でどこに落ち着くか客観的な結論を出したい」。

渡邉教授

南相馬で低コストの大量生産モデルが確立すれば、全国各地で土着藻類によるバイオ燃料生産が新たな地域産業として成長し、再生可能エネルギー自給率が上がり日本は産油国になる。そんなシナリオも夢ではなさそうだ。

このあと取材班は、南相馬市に設立された藻類バイオマス生産開発拠点を訪問しました。被災地で進む、産業化に向けた試み。はたして、地元にどんな希望をもたらしているのか、関係者のみなさんに伺います。

後編 南相馬発、被災地から次世代エネルギー産業を ——藻類バイオマスエネルギーの可能性

The post 南相馬の土着藻類が日本を産油国へ導く?——藻類バイオマスエネルギーの可能性(前編) appeared first on あしたのコミュニティーラボ.


Viewing all articles
Browse latest Browse all 42

Trending Articles