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南相馬発、被災地から次世代エネルギー産業を ——藻類バイオマスエネルギーの可能性(後編)

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前編 南相馬の土着藻類が日本を産油国へ導く?——藻類バイオマスエネルギーの可能性

平均水温6℃でも生長する、驚くべき土着藻類の底力

南相馬市原町区につくられた藻類バイオマス生産開発拠点(道路右)
南相馬市原町区につくられた藻類バイオマス生産開発拠点(道路右)

福島県南相馬市原町区泉。塩害で耕作のできなくなった田畑や、家屋が流された跡の空き地が広がり、今なお東日本大震災の津波の爪痕が残る。

そんな土地の一角を利用して建設されたのが、藻類バイオマス生産開発拠点だ。福島県再生可能エネルギー次世代開発事業を藻類産業創成コンソーシアムが採択し、2013年10月から研究開発が行われている。

まだ肌寒い3月でありながら、緑色の藻類が漂う培養池。色鮮やかな藻類がこの季節に生育するのは珍しいそう
まだ肌寒い3月でありながら、緑色の藻類が漂う培養池。色鮮やかな藻類がこの季節に生育するのは珍しいそう

50m×20mの水路に撹拌機が回る。寒風吹きすさぶなか、水路の水は濃い緑色。藻類が順調に育っている証だ。前職の化学メーカーで青い色素を出すスピルリナなどの藻類を培養していた同コンソーシアム技術担当、渡邉輝夫さんは「スピルリナの生育がいちばんよいのは35℃くらい。15℃近くになると生産はストップしました。ここでは昨年12月の平均水温が6℃。それでも十分、土着藻類は生えてきます。私の経験では考えられません」と驚きを隠さない。

藻類産業創成コンソーシアム技術担当の渡邉輝夫さん
一般社団法人藻類産業創成コンソーシアム 技術担当の渡邉輝夫さん

土着藻類は種類によって季節ごとに育ち方が違う。何種類の土着藻類を培養しているか「とても数えきれない」と話すのは、研究を指導する筑波大学藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センターの主任研究員、出村幹英さん。

「近くの池をいくつか回って取ってきた水でスタートしたので、自然の池で育っているそのままの状態を移動しただけです。そこに含まれていた藻もいるし、藻類は土中にも存在し空気中にも漂っているので、後から自然に生えてきた藻もあります。イカダモなどメインのものはいくつかありますが、細かく数え出したら、おそらく何百、何千という種類が同時に育っているはずです」

筑波大学藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター主任研究員の出村幹英さん
筑波大学藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター主任研究員の出村幹英さん

同センター長の渡邉信教授が前編で述べたように、バイオ燃料として採算ラインに乗る製造コストまで下げることが目標だが、最初のハードルである「土着藻類が育つかどうか」は超えた。「コストダウンの面ではICTが有効であることが見えてきたので、うまく活用していきたい」と出村さんは語る。

というのも、本研究プロジェクトには富士通グループも参加しているためだ。きっかけは、株式会社富士通システムズ・ウエストの西川暢子さんが藻類産業創成コンソーシアムに飛び込んだことだった。東日本大震災以降、「エネルギー問題に対して何かできないか」と強い問題意識を持っていた西川さん。「自分の父が電力会社に勤めていたこともあって、エネルギー問題は他人ごとではありませんでした。ICTを活用して生産の効率化を図るなど、産業化に行き着くところまでお役に立てたらうれしい」。いまでは全社を巻き込んで、コストダウンの可能性を模索している。

藻類バイオマス事業化のロードマップ

オイルの抽出には、高温高圧化で処理する水熱液化技術を導入し、「比較的高効率でオイルになることが見えてきたので手応えを感じている」と出村さん。土着藻類を使った研究はニュージーランドで前例があるが、日本での実証実験(水熱液化の導入による土着藻類からのオイル抽出)ははじめての試みとなるだけに、事業化の目処が立つことへの期待は大きい。

藻類バイオマス生産開発拠点内の収穫棟。高温高圧化により、効率的に藻類を処理するめどが立ってきた
藻類バイオマス生産開発拠点内の収穫棟。高温高圧化により、効率的に藻類を処理するめどが立ってきた

実証研究に取り組む筑波大学発のベンチャー、藻バイオテクノロジーズ株式会社の長期展望によれば、事業化へのロードマップはこうだ。

2018年までに健康・美容用品や機能性食品・材料など高付加価値の製品で事業基盤をつくる。畜産・水産飼料や化学工業製品など安価に大量供給可能な製品の可能性を探りつつ、2025~30年を目標としてバイオ燃料が産業として成立するまで生産コストを下げる。

「燃料だけを目指していると先はまだ遠い。藻類自体には多様な可能性があるので、前段階として高付加価値の製品で事業化を図れれば」と出村さんも話している。

南相馬の子どもたちの未来に活かしたい

土着藻類からのバイオ燃料事業化は地域に新たな産業を興すことであり、地域の活性化にもつながる。南相馬市で火力発電所の水処理や産業廃物処理を受託する株式会社相双環境整備センター代表取締役の佐藤光正さんは「稲作に代わるものとして、藻の生産ができれば」と期待をかけ、藻類産業創成コンソーシアムに参加した。地元の藻類バイオマス生産開発拠点で実証研究に取り組む藻バイオテクノロジーズ株式会社に社員を出向させている。

株式会社相双環境整備センター代表取締役の佐藤光正さん
株式会社相双環境整備センター代表取締役の佐藤光正さん

「かつての養蚕業は年に6〜8回転し、稲作の合間を縫って農家の大きな収入源になっていました。年間を通じて生産できる土着藻類なら、それ以上のことができるはず。もともとこのあたりは海を干拓して開いた田んぼが多いので、津波でやられてしまうと塩害がひどく稲作ができなくなるんです」

藻バイオテクノロジーズ南相馬研究所所長の玉川雄一さんは2年前まで地元の小学校の校長を務めていた。それだけに、事業化を成功に導くことによって「地域の人材育成に活かしたい」と希望を抱く。

藻バイオテクノロジーズ株式会社 南相馬研究所所長の玉川雄一さん
藻バイオテクノロジーズ株式会社 南相馬研究所所長の玉川雄一さん

「子どもたちの未来を育てるための手段の1つになります。地元にもこんな夢のあるすばらしい事業があるんだ、となれば自信と誇りをもてる。被災地の子どもたちは、まるで土着藻のように強いですよ。最終的には子どもたちが健やかに育ってもらいたい。そのためには事業化によって親御さんの雇用を生み、地域にこのプロジェクトの意義を理解してもらう必要があります」

稲作に代わる農家の新しい事業として。人材育成につながる雇用と地域理解。それぞれの想いを胸に、地域の未来を土着藻類に託している。

震災復興を促進し福島から世界に発信できる事業

施設管理を担当する若手スタッフの河原田充さんは、農畜産資源のバイオマス利活用事業に取り組む福島市の株式会社ふくしま・みどりファームから業務委託で出向している。「大きな視野では、うまく産業化につながれば福島から世界に向けて発信できる事業ですし、足元では福島の雇用を新たに生み出し、震災復興を促進すると思います」と、このプロジェクトの可能性を語った。

一般社団法人藻類産業創成コンソーシアム 施設管理担当の河原田充さん
一般社団法人藻類産業創成コンソーシアム 施設管理担当の河原田充さん

藻バイオテクノロジーズ南相馬研究所室長の渡部将行さんは、相双環境整備センターから出向している若手スタッフ。「藻類バイオマスという今までにない、まったく新しいエネルギーの仕事ができるのは光栄です。地元の人はみんな震災で苦労したので、復興事業の一翼を担えればうれしい」と話している。

藻バイオテクノロジーズ株式会社 南相馬研究所室長の渡部将行さん
藻バイオテクノロジーズ株式会社 南相馬研究所室長の渡部将行さん

渡部さんは火力発電所の受託業務でプラント運転の経験はあるが、既存の装置や技術が藻類にどう適用できるか、確認しながらの作業が続いた。「機器がすべて揃い収穫も順調。苦労してきたことがやっと形になってきました。オイル抽出の工程で使う水熱液化の機械はまだ小さな実験段階の装置ですが、運転の知見を積み重ねて、産業化に向けたスケールアップに備えたい」と意気込む。

数えきれない多様な土着藻類だからこそ、冬の厳しい日本の風土だと単一種では無理だった年間を通じての生産が可能になった。地元の人たちも各々の想いで藻類バイオ燃料事業化のプロジェクトに挑み、コンソーシアムに参加する80社の企業も新しい再生可能エネルギーの実現に向けてリソースを持ち寄る。どこにでも無数に棲息する土着藻類。人と自然の共創プロジェクトが実を結べば、全国各地で藻類バイオ燃料による地域活性化の道が開けるに違いない。

研究所

前編 南相馬の土着藻類が日本を産油国へ導く?——藻類バイオマスエネルギーの可能性

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