オープンイノベーションが生まれる“福岡”のプラットフォーム――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(1)
福岡の関係性のなかから新たな事業を仕掛ける――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(2)
自身の背景をもとにプロジェクトに参加
「教育コンテンツの開発と、プロダクトの開発。PLAceはその両面から教育というカテゴリーにアプローチしています」
PLAce株式会社の久保山宏さんは、学生時代から塾講師を務め、公民館などで理科実験教室等を行う学生団体を主宰していた。九州大学大学院工学府物質プロセス工学専攻の博士課程を修了後は工学の道には進まず、子どもの将来や社会につながる学びを模索すべく教育の世界へ飛び込んだ。
PLAce株式会社 久保山宏さん
2015年にPLAce株式会社を立ち上げ、現在は中学・高校の授業カリキュラムや、子ども向けの体験ワークショップの設計などに従事する。そして、その一方ではじめた幼児向けのおもちゃ開発が、INNOVATION STUDIO FUKUOKAから生まれたプロダクトだ。
#1プロジェクト「日常の中のスポーツのデザイン」の最初のフェーズにおけるUncoverイベントで久保山さんは「子どものスポーツと学び」のチームに参加した。自身が2児の父親であることも背景にあり、「親子の運動」をテーマにリサーチ&フィールドワークを実施した。
遊びのプラットフォームを開発したい
親子の関係性が、子どもの運動に歯止めをかけてしまうのではないか。そんな仮説を持った久保山さんのチームは、スポーツ指導をする親などへのインタビューを通じて「子どもの運動を促す“第3の存在”がある」というインサイトを得た。
「運動教室の若手インストラクターのような存在です。成長する第3の存在がいることで、親子の運動にほどよい刺激が生まれ、3者が一緒に成長していく。しかも、第3の存在は人に限らないかもしれない。そこで集団遊びに発展したり、遊び自体も成長したりする、そんな遊びのプラットフォームになるツールを開発したいと思いました」
現在試作中のプロダクトは、ボード、バンド(ジョイント)、デジタルモジュールの組み合わせキット。子どもたちはこれでトンネルや家などの空間を組み立てることができ、LEDライト、スピーカー、センサーなどのデジタルモジュールで遊びを拡張できる。すでに保育園やイベントなどで実証実験を進めている。
「デジタル系の教育教材となるとほとんどがタブレット端末のアプリ。だけどタッチするだけでは動作が単調だし、ディスプレイに縛られるのは嫌。組み立ておもちゃもたくさんあるけれど、集団遊びにはなかなか発展しない。もっと集団的・身体的に遊ぶことを促したい」
オーナーシップがないと事業化に発展しない
INNOVATION STUDIO FUKUOKAに参加した2014年9月当時、久保山さんは独立後間もない頃だった。当時の仕事のクライアントの経営者とともに参加したが、最初はイノベーションスタジオのプロセスそのものを勉強しようという軽い気持ちだったという。
しかしプロトタイピングの段階に進むと、アイデア自体をおもしろがるクリエイターも参加し、次第に久保山さんも熱を帯びてきた。当初は決して乗り気ではなかった久保山さんも、このときには製品化まで発展させることを考えはじめていた。
INNOVATION STUDIO FUKUOKA アシスタントディレクター 岡橋毅さん(写真右)
最終のプラン発表の場であるExchangeで発表した現在のプロダクトの原型は、踏むことで光るパネルを組み合わせ、遊びのフィールドをつくるというもの。ソートリーダーである為末大さんから評価も高く、同じくソートリーダーの一般社団法人マザー・アーキテクチュア代表理事の遠藤幹子さんは、卒業後も、久保山さんにアドバイスを送ってくれる。田村さんや遠藤幹子さんの紹介もあって、児童館やデジタルベンチャーの人たちと出会う機会も得た。
「活動のなかでは、オーナーシップがなくては事業にならないと感じました。正直、地域に対する思いはそこまで強くないけれど、自分には4歳と1歳の子どもがいる。彼らは学校教育を受け、普通に考えれば、高校までは地元の学校に通うでしょう。だったら、自分が仕掛けられる範囲で活動し、自分の子どもがよりよい教育を享受できる世界を福岡につくればいい。そんな“超個人的”な理由も、ここではいろいろな人を巻き込んでやっていくことができるんです」
持続する“型”をどうデザインするのか
INNOVATION STUDIO FUKUOKA・ディレクターの田村大さんは、INNOVATION STUDIO FUKUOKAで目指すところは、“シリコンバレー型”ではないと話す。
#1プロジェクトの集合写真(画像提供:(C)Re:public)
「豊富な人材を吸引するしくみがあり、激しい競争を繰り広げ、勝ち残った人が大きな市場を手に入れる。それによって新たな人材が惹きつけられるという循環がまわっていく。それが“シリコンバレーの勝ちパターン”です。僕が実現したい“福岡型”のイノベーションは、シリコンバレーのモデルとは異なる。自分たちの生活をよりよいものにしていきたいという意思を持った市民が、自らが起こす事業を通じて、その願望を叶える。こういった運動が面として広がっていくことで、自分たちの手で社会をよりよいものに変えていくことが当たり前になる。INNOVATION STUDIO FUKUOKAはそんな文化を育てていくプラットフォームです」
では、そんなプラットフォームをつくるには何が肝となるのか。
「絶え間ない内と外の触発と交流がカギになると考えています。プロセス自体は奇をてらったものではありません。しかし、このプロセスに積極的に加わってくれるソートリーダーなど、外からの参加者、そして自分の手で課題を解決し、変化の担い手になろうとする意欲的な市民の双方に恵まれています。だから私たちは『市民を育てる、エンパワーする』というだけではなく、市民が外の人材とつながり、双方の知識や経験が融合して化学変化を起こし、新しい価値をつくりあげる環境を整えることに知恵を絞っているんです」
市民、先駆者、行政、ファシリテーターなど、立場を超えた人たちが集うINNOVATION STUDIO FUKUOKA。多様な人同士の化学反応が続いていくことで、福岡がイノベーション先進地としてさらなる注目を集めていくに違いない。
オープンイノベーションが生まれる“福岡”のプラットフォーム――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(1)
福岡の関係性のなかから新たな事業を仕掛ける――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(2)
<関連リンク>
INNOVATION STUDIO FUKUOKA
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