“超個人的”な理由でも、人を巻き込めばコトは立ち上げられる――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(3)
オープンイノベーションが生まれる“福岡”のプラットフォーム――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(1)
考え方を変えて、イノベーターになる必要があった
森山暎子さんは、#1プロジェクト「日常の中のスポーツのデザイン」の卒業生の1人だ。
2010年10月から、お昼休みの“10分間”でできる運動として「10分ランチフィットネス(R)」の普及に向けたテストを福岡市内ではじめた。2012年には一般社団法人10分ランチフィットネス協会を設立。10分ランチフィットネスの活動は、福岡市との協働事業として、福岡市内の公園や駅前、企業などで出前レッスンが開かれ、これまで延べ8,000人以上が参加するなど一定の成果を得ていた。しかし森山さんは課題を抱えていた。
一般社団法人10分ランチフィットネス協会 代表理事 森山暎子さん
「運動やスポーツのとらえ方も人それぞれです。“フィットネス”と聞くだけで嫌がる人もいる。10分ランチフィットネス(R)の普及を考えた場合、運動という言葉の定義づけをはっきりさせ、それを共有して進めていく必要があります。フィットネス業界で働く人だけで話し合うと、知識は深まりますが、新しい視点が生まれづらく変化は起こりません。価値の見直しを含め、私たちが考え方を変え、イノベーターになっていく必要がありました」
新たな知見による考え方を学び、自ら経営するフィットネスクラブに新しい風を入れたいと、九州大学大学院統合新領域学府「ユーザー感性学専攻生」として、勤労者の運動実践のきっかけづくりとして「10分ランチフィットネス(R)」を考案、調査研究を開始。そうした活動を続けるなかでINNOVATION STUDIO FUKUOKAに出会った。
3つのイベントと、3つのフェーズ
森山さんが参加した、#1プロジェクト「日常の中のスポーツのデザイン」は、3つのフェーズが設けられ、各フェーズには、Uncover、Inspire、Exchange、という3つのマイルストーンとなるイベントが組み込まれている。
プログラムは3つのフェーズに分かれる(写真提供:福岡地域戦略推進協議会)
「Uncover」(2015年9月13日〜15日)は、元プロ陸上選手・為末大さんら、“ソートリーダー(Thought Leader)”と呼ばれる実践的な先駆者によるインプットの時間と、“リサーチ&フィールドワーク期間”で構成される。そこから、持ち込んだ課題のテーマごとに合計10チームが組成され、森山さんはこのうち「(10)継続チーム」に参加した。なお、プロジェクト期間中はチームの再編成は自由に行える。
「継続チーム」では「スポーツを継続している人は自分なりのスケッチ(編集部注:形や方程式などの意味)を持っているのではないか」という仮説を設定。同じことを何年も続けている人たちからヒントを探った。
インサイトの組み合わせで“継続のカギ”を確認できた
約10名で構成されたチームメンバーは、「度が外れるくらいに何かを続けている人たち」をインタビュー対象に設定した。たとえば、365日、毎朝同じ時間に霊園近くの公園でラジオ体操をやっている高齢者の方や、代々続く博多人形師の家系に属す方、ウルトラマラソン(一般的なフルマラソンを超える耐久マラソンの総称)のランナー、ウォーキング実践者……といった面々だ。
株式会社正興電機製作所 経営統括本部 有吉大助さん
株式会社正興電機製作所から参加した有吉大助さん。同社で経営統括本部に在籍する有吉さんは、同社が福岡地域戦略推進協議会(以下、FDC)の人材部会に参加していたことが縁で、#1プロジェクト「日常の中のスポーツのデザイン」に加わることになった。インタビュー中の発見を以下の様に話す。
「運動の延長ではなく、違うところに継続のカギがあった。たとえば、ウォーキングの人も、ベストとか帽子をたくさん持っていて、それを着たいという思いが継続のモチベーションになるように。そうした1つひとつのインサイトの組み合わせで、『あれ、共通する継続のカギってこれだよね』とメンバー間で確認ができたんです」
同じチームでインタビューを行った森山さんも「もらったコメントに対しての捉え方がメンバーごとに違う。インタビューを終えた後にメンバーで話すのがいちばんおもしろかった」と振り返る。
事業化に向けたプログラム構成とは
リサーチ&フィールドワーク(フェーズ1)を終えると、メンバーはアイデアを磨き上げるためのワークショップ「Inspire」(2014年11月29日~30日)に参加する。ここでもソートリーダーとしてソニーコンピューターサイエンス研究所・遠藤謙さんのほか、起業コンサルタントや弁理士などが活動に参加し、参加者にアドバイスやサポートを行う。
「Inspire」を終えてからはプロトタイプ&テスト(フェーズ2)がスタート。約2カ月間にわたり、アイデアの事業化に向けた試作品・試作サービスの検証が行われた。
その後は中間レビューを経て、2015年2月14日の「Exchange」で各チームが事業化に向けたプランを発表。そこからスケールアップ&スケールアウト(フェーズ3)、すなわち事業化に向けた具体的なアクションに突入することとなる。
新たな接点が新しい価値をつくりだす
森山さんと有吉さんは現在、「Exchange」で発表したそれぞれのプランをアイデアの事業化に向けた仮説・検証を繰り返している段階だ。
プロジェクト期間中、有吉さんが行き着いたテーマは「“笑い”の数を数えるシステム」。活動を通じて「人間の感情が一番大事なのではないか」という考えに行き着き、企業、高齢者施設、ひいてはブライダル関連の婚活イベントなど、多方面の分野での事業プランを社内の新規事業として立ち上げた。
一方、もとは10分ランチフィットネス(R)という1つのパッケージを広めることをテーマに参加していた森山さんの場合、「フィットネスをそのまま1つのパッケージとして売っていくのはなかなか難しい」との結論に至った。そこで現在は勤労者を対象に、企業の中の“休憩の時間”をどのように過ごしてもらうか、地域の大学とも連携しながらその考え方を広めていこうとしている。
「現在進行している事業化のプロジェクトをわかりやすく言えば、“休憩時間のデザイン”です」
有吉さんも同じテーマ、同じチームのなかで活動するにつれ、森山さんの活動に共感するようになった。こうして、調査・研究を正興電機製作所と一緒に行う運びとなり、事業化に向けた協働の歩みが着々と進められている。
休憩時間に行われる10分ランチフィットネスの様子(写真提供:株式会社正興電機製作所)
「正興電機製作所を大きくしていくことはもちろんですが、“健康経営の福岡版”のようなかたちで広がっていくことが、いちばんの願い。東京をモデルにしているわけでもなく、これが福岡の健康経営のかたちだよ、ということを示していきたいです」と有吉さん。
もとはほぼ接点のなかった2人が新規事業に向けて協働する。そうした形態も、INNOVATION STUDIO FUKUOKAから生まれる“場づくり”の1つのようだ。
“超個人的”な理由でも、人を巻き込めばコトは立ち上げられる――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(3)
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10分ランチフィットネス
株式会社正興電機製作所
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