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Channel: 共創 –あしたのコミュニティーラボ
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未来が生まれる場所をつくるノウハウ ――『ITpro』にてハッカソン運営術コラム公開中!

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こんにちは。あしたのコミュニティーラボ編集部の武田です。

あしたのコミュニティーラボを運営する富士通では、さまざまな場で取り組まれるイノベーションの先進事例に学びながら、新たな“場づくり”や“価値づくり”への挑戦として社内ハッカソン(通称:FUJI HACK)に取り組んできました。その概要はコラム「未来が生まれる場所をつくる ――富士通の挑戦 」でも紹介しましたが、このたび、あしたのコミュニティーラボにて2014年春に開催した「さくらハッカソン」をはじめ、これまで実施してきた一連の取り組みの成果を、ITproさんに特集として取り上げていただきました。

特集では、企業がハッカソンに取り組む意義や可能性のほか、ノウハウとしてのハッカソン運営術を紹介しています。全9本で構成される記事。ハッカソンに興味がある方は、ぜひのぞいてみてください。

受託型SEを“共創人材”へ、ハッカソンを推進する富士通(外部リンク)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/020200024/

富士通ではハッカソンをたんなるイベントではなく、さまざまな人とつながり、イノベーションを生み出す「共創」の方法論として取り組んできました。私たちは、社会的な課題の解決や新たな価値の創出に向けて、引き続き立場を超えた人たちとの共創の可能性を探っていきます。

記事をお読みいただいているみなさんともぜひ一緒に活動していきたいと思っていますので、これからもあしたのコミュニティーラボにご期待ください!


震災体験から生まれた「新・神戸」のためのコミュニティーづくり ――震災後20年の神戸に学ぶプロジェクトデザイン(後編)

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「常識」が通じないなら「超常識」で立ち向かえ 〜震災20年後の神戸に学ぶプロジェクトデザイン(前編)

ハードを整備し、横串しでまちのソフトづくりに挑む

河合節二さんは、神戸市長田区のJR鷹取駅南側地域一帯を拠点とする野田北ふるさとネット(以下、ふるさとネット)の事務局長。ふるさとネットは、同地域のために活動する個々の組織をゆるやかにつなぐ、地域のハブとしての機能を持った団体だ。

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野田北ふるさとネット事務局長 河合節二さん

震災に直面したのは、33歳のときのこと。当地の出身者である河合さんは、1993年に発足したばかりの野田北部まちづくり協議会に参加し、地元で開かれた市の再整備事業の完成式典(94年12月18日)に出席した。そのちょうど1カ月後、野田北部地区は阪神淡路大震災に見舞われた。

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震災当時の野田北部地区の様子(提供:野田北ふるさとネット)

野田北地区の被災状況は、家屋3割が全焼、7割が全半壊、死者の数は41名。協議会が災害対策本部を立ち上げ、現地の救援活動をはじめる。それと併行して神戸市では震災復興土地区画整理事業をスタート。野田北地区でも特に壊滅的な被害にあった「鷹取東第一地区」が指定を受け、海運町2〜3丁目が区画整理の対象になる。しかし、ほかにも大きな被害を被った区画整理指定外のエリアがあり、協議会は住民や専門家と協議を重ね、自主的な復興のプランニングに着手。神戸市にまちの再建案を持ちかけた。

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現在の野田北部地区街路の様子。民家が並ぶ路地は幅が広がり、見た目もすっきり。緊急車両の通行にも対応した

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震災前の野田北部地区の様子(提供:野田北ふるさとネット)

河合さんらの復興計画は「街並み誘導型地区計画」に基づくもの。これにより歩きやすい街並みが形成され「将来的に5mの路地の確保も可能」だという。合理的なまちなみ形成は「従前のまちと同じ轍を踏むまい」という住民に共通する思いで、同時に進められた「街なみ環境整備事業」では路地の美装化も推進した。

時間経過とともに野田北地区は日常的風景を回復させつつあったが、地域課題は残っていた。

「将来的にどんなまちにしていくのか、市の職員や住民たちと話し合うなかで『ふるさとと呼べるまちに戻す』という意見があった。そのためにはハード整備だけではダメ。みんなをつなぐ場・機能が必要だった」

そこで協議会では「ハードからソフトへ」を合い言葉にコミュニティーづくりに注力。2002年にふるさとネットを発足させ、縦割りだった自治会などの団体・組織を横串しにし、定期的に情報交換できる場を設けることで、単独の組織・団体ではできない活動をふるさとネットでできるようにした。

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鷹取駅下部連絡通路(旧国鉄施設の面影が残る通りの様子)

まちの美化に努める「野田北美しいまち宣言」もその1つ。最近はNPOとのコラボレーションで駅前の駐輪場を整備した。現在の野田北地区はかなり整えられた状態に見えるが、河合さんは「復興のゴールはまだまだ」と話している。

コミュニティーをつなぐ、メタなコミュニティーをつくる

「1.17」の当時、神戸大学の2年生だった舟橋健雄さん。

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「神戸ITフェスティバル」オーガナイザーの舟橋健雄さん

「震災を契機に世界中から濃い人が神戸に集まり、いろいろな人と出会った1年間は貴重な時間だった」。そこでの刺激が、後の舟橋さんを突き動かす原体験となる。

「実現したかったのは“多様性”。神戸ってハイカラなイメージですが、コミュニティー同士の関係がバラバラで、場合によってはドロドロしていることすらある(笑)。それは1.17以降顕著になりました。それぞれすてきな活動なのに、バラバラなんてもったいない。本来コミュニティーという言葉の語源には、「互いに与え合う」っていう意味があります。どうにかコミュニティーを“つなぐ”ことができないかと、僕らは“IT”と“アイデアを媒介として、『コミュニティーを包摂するコミュニティー』、すなわち“メタなコミュニティー”をつくろうとしています。そうすれば、たんにいろいろな文化がバラバラに存在する“多文化状況”から、“多様性”といえる状態に昇華できると考えています」

ふだんは株式会社神戸デジタル・ラボに勤める舟橋さんだが、会社にも応援されながらの地域活動として、2つの地域コミュニティーを運営している。1つは「ギークな人たちだけを集めるのでなく、ITを専門としていない人にも楽しんで参加していただける」という「神戸ITフェスティバル」。2011年から毎年開催し、これまで計4回開催している。

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「神戸ITフェスティバル」は、大人だけでなく子どもも参加することができる(提供:神戸ITフェスティバル)

もう1つの「TEDxKobe」は、「Ideas worth spreading(より良いアイデアを広めよう)」を理念とする世界的スピーカーイベント「TED」からライセンスを受けてスタートした活動。2013年に認定された「TEDxSannomiya」を前身としており、今年5月24日には「Dive into Diversity」をテーマに掲げる「TEDxKobe2015」を控えている。

震災から引きずっていた「逃げ出したような負い目」

2012年から、神戸での“多様性”づくりに共感した同志もできた。2つのコミュニティー運営で舟橋さんと行動を共にする、鈴木敏郎さんだ。

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(左から)「神戸ITフェスティバル」オーガナイザーの鈴木敏郎さんと舟橋健雄さん

鈴木さんは「1.17」を京都で知った。隣接する明石市内の実家が被災し、幸い家族に怪我はなかったものの「実家から帰ってこなくていいといわれた。何1つ手伝うことがなく、被災者にも支援者にもなれなかったことで、震災から逃げ出したような負い目を引きずっていた」。

震災体験を違える2人だから「神戸の話になるとしょっちゅういがみ合いになる(笑)」というが、舟橋さんは「お互いわからないことを前提にしたつながりはある。むしろ僕らは、足りない者同士で補い合っていける関係」。

2015年1月17日の「TEDxKobeSalon vol.2〜Facing Barriers」は、鈴木さんも携えていたそんな「他者との隔たり」を考えるイベントとなった。

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TEDxKobe salonの集合写真(提供:TEDxKobe)

「自分と同じような体験をしている人も多く、相手の違いを認識したうえで、隔たりを埋めることに価値を感じた人も多かったと思う」。2人は子を持つ親という共通項を挙げ「子どもが大人になったときに、神戸が楽しい場所じゃないと僕らも困る。神戸を大きな家族のような場にして、すてきな未来を見せたい」と口を揃えた。

共通項は、自燃型かつ共創型であること

その土地への思い、そして、震災体験が火種となり、人に着火させてもらうことなく自ら燃え上がる“自燃型”の「神戸改革」に取り組んだ永田さん。また、年齢、被災状況、活動をはじめた時期、そして活動の手法も異なる今回の面々も自燃型であるのは同様だ。

「少し乱暴な言い方になるけれど、復興はやったもん勝ち。だまっていたら損をする。上意下達でキーマンの登場を待つようではうまくいかず、行政、専門家、ボランティア、住民が手を取り合えば、将来的によいまちになるはずです」(河合さん)

「多元的にコミュニティーをつないでいけば、本当の意味での“多様性”を神戸に実現できる。進行方向さえ間違えなければ、“IT”と“アイデア”という2つの媒介を両輪にして、神戸はもっとすてきなまちになっていくと、実は楽観している部分もあります」(舟橋さん)

自燃型ともう1つ全員に共通するのは、他者の知見を組み合わせて、自らは“媒介者”になっていること。みなの思いが結合し、ブレイクスルーを迎えたとき、「神戸」は本当の意味での復興を迎えるのかもしれない。

4年前に「3.11」を体験した日本には、被災地からの物理的な距離も、当時の年齢・立場も、関わり方も異なるが、何かしらの「震災体験」を携えた人がたくさんいる。その体験の裏には「何かしたかったけど何をすればいいのかわからなかった」というある種の悔恨がつきまとっているはずだ。

しかし、神戸にはいまだ潜在的な地域課題が折り重なり、解決のプレイヤーは今なおその課題解決方法を探求し続けている。震災復興は、20年経っても現在進行形であり、私たちが思っているよりも、ずっと“ゆるやか”なものなのかもしれない。

ならば、今この時間に暮らしている私たちもみな、プレイヤーになり得るとも言える。そして、何かを解決したいという火種をもっておくことが、震災を風化させない最も有効的な手段になるはずである。

「常識」が通じないなら「超常識」で立ち向かえ 〜震災20年後の神戸に学ぶプロジェクトデザイン(前編)

学生、社会人、立場を超えて“これからの仕事”を考える ――あしたラボUNIVERSITY1年目の挑戦(前編)

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互いに学び合う場づくり、2年目に向けて ――あしたラボUNIVERSITY 1年目の挑戦(後編)

「仕事のイメージを変えたい」がきっかけ

「お堅いデスクワーク」「積極性がない」「何をやっているかわからない」「何かのスポンサー」「決まりにのっとった感じ」「保守的・大組織」……。これらはプロジェクトに参加した学生からのアンケートで集まった「富士通に対する事前印象」欄に記入されていた回答群だ。

しかしこれは“富士通”という1企業だけに限らず、企業規模が大きく、幅広い分野で事業を展開する企業の多くに学生が抱いているイメージなのではないだろうか。「学生の目に触れやすい携帯電話やパソコンといった商品以外にも、富士通には多様な技術、サービスがあり、魅力的な人たちがいる。そのことをどうすれば伝えられるのか」富士通株式会社 人事本部人材採用センター(以下、採用センター)で、日頃から学生と関わってきた梅津未央さんは苦慮していた。

伝わらなければ理解されない。これは、これから社会に飛び出そうとする学生たちに「仕事=つまらないもの」というイメージを持たせることになってしまうのではないか——。その課題意識がこのプロジェクトの出発点だった。

3部署横断プロジェクト、キックオフ

2014年度の「あしたラボUNIVERSITY」は、採用センター、富士通株式会社 インテグレーションサービス部門 戦略企画室(以下、戦略企画室)、株式会社富士通総研(以下、FRI)の3部門が企画・運営をしている。プロジェクトの発起人でもある採用センター 梅津未央さんには「ただ企業紹介をするだけの採用イベントではなく、 “仕事のおもしろさ”を体感してもらうことや、“人や人から生まれるアイデアの多様性を知って仕事に生かす”というメッセージを込めたプロジェクトを立ち上げたい」という熱い思いがあった。

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富士通株式会社 人事本部人材採用センター 梅津未央さん

「私たち採用センターのメンバーは皆“学生の成長を支援したい”という思いをもって仕事をしています。また、学生と接する中で、彼らの持つパワーを感じることは富士通社員にとって普段は得られない刺激になるだろうと思っていました。富士通にただ興味を持ってもらうのではなく、就職活動における学生さんと富士通社員との接点が、お互いにとって成長の機会になる、そんな場所をつくりたいと思いました」(梅津さん)

2014年の夏頃、採用センターとして何かできることはないか考えていた梅津さんは、立教大学経営学部佐々木宏教授と富士通、あしたのコミュニティーラボの共創プロジェクト(以下、立教PJ)を知った。立教PJは、FRIと戦略企画室が企画・運営を担当したプロジェクト。戦略企画室の浜田順子さんは、当時のことをこう振り返る。

「“キャリア支援の場をつくりたい”という思いを聞いているうちに、それは、私たちが掲げる“共創”というテーマとも共通するものがあるのではと感じました。『あしたラボ』ではこれまで社会課題の解決に取り組んでいる方々を中心にメディアを活用し、プロジェクトを展開してきました。メディアの読者は若手ビジネスマンが中心でしたが、もっと多様な視点、特に未来を担う学生やデジタルネイティブ世代にもそれを伝えて、一緒に何か行動を起こしていきたいと常々考えていたんです。それであればぜひ一緒にプロジェクトをやっていこう、と話がまとまりました」(浜田さん)

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富士通株式会社 インテグレーションサービス部門 戦略企画室 浜田順子さん

以降は、立教PJや社内ハッカソン「FUJIHACK」でのプログラム設計のノウハウを持つFRIも加わり、3部門協働の“新たな共創チャレンジ”がスタートした。

ゆるやかなつながりが継続する“共創コミュニティー” を目指して

3部門の運営メンバーは、「戦略企画室=全体企画とプロジェクト管理」「採用センター=学生視点の企画支援と学生のフォロー」「FRI=プログラムの設計とファシリテーション」を主な役割分担として、2014年度プロジェクトが終了する2015年3月までの間、協働でプロジェクトを推進してきた。

「これからの時代に必要な、新しい働き方や仕事のつくり方を体感してもらう場にしたい」という3部署共通の思いのもと、トークイベント、出張授業、アイデアソンを柱とする全体スケジュールはスムーズに決定した。

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2014年度のあしたラボUNIVERSITYスケジュール

各イベントの社内外ゲストの調整や、イベント会場の準備・設営、参加する学生の募集・選定などもあったなかで、特に苦心したのは、本プロジェクトの核となるアイデアソン「あしたのまちHack」のコンセプトづくりだったと話す。この議論は土壇場まで続いた。

採用センターが当初大きな目的として考えていたのが「富士通や社員のことをもっと知ってほしい」、「これまで会えなかった多くの学生に富士通に関心を持ってほしい」というもの。一方、戦略企画室・FRIは「共創」を大前提に「多様性の体感」、「自分の身近な問題に目を向け、自分ごととして考え、次のアクションを起こしてもらうための新しい学びの場づくり」といった構想を持っていた。

「多様性のあるメンバーが揃って、できることに幅が広がった半面、意思統一がとても難しかったです。お互いが持つ単語の定義からはじめました。例えば、“インターンシップ”という言葉。梅津さんは、“キャリア支援”という意味合いで“インターンシップ”を表現していましたが、川口さんや私にとっては“採用活動”という意味合いに感じました。『富士通の営利や採用に閉じた活動にみられてしまうのでは?』と抵抗がありました。そんな意識をひとつずつあわせて、全員で合意するまでかなりの時間がかかりました(苦笑)」と浜田さんは当時を振り返る。

そして、そこから浮かび上がったのは、“共創コミュニティー”というキーワードだったとFRIの川口紗弥香さんが説明する。“会社対学生”という関係ではなく、“人と人”が向き合い、つながる場をつくるという考え方だ。

「参加する学生さんがこの先、富士通に入社しなくても構わない。将来、何かをやろうとしたときに“あの時に出会ったあの人とやりたいな”と色々な場面で思える土壌をつくりたくて、それが“共創コミュニティー”なんだと考えました」

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株式会社富士通総研 川口紗弥香さん

浜田さんも「大きなプラットフォームをつくり、そこでどんどん仲間が増えていく。イベントが終わって学生さんたちがどの会社に勤めたとしても、この先もずっとゆるやかにつながるような場にしたかった」と続ける。それは、プロジェクトの発起人である梅津さんの思いとも、ぴったりと合致するものだったと言う。

「明日から身の回りに目を向けたい」——参加学生にもたらした変化

日頃の業務では、なかなか学生との接点を持つことがない浜田さんや川口さんには、冒頭のアンケート結果に表れた“富士通のイメージ”は「正直、なかなか衝撃的なものだった」と笑う。しかしイベントを通して変わった「After」の回答を見れば、学生が持つ “仕事や企業に対するイメージ”がこのプロジェクトによって、どんな変化をもたらしたのか一目瞭然だ。

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イベント前後に行った富士通に対する印象のアンケート結果 Before→Afterはここまで変わった

「社会課題への取り組みが強い」「創造を実現する場所」「積極性◎」「おもしろい取り組みをやっている企業」「多様なものに焦点をあてている」「革新的・ベンチャー体質もある」……。

“Before”で「SEはひきこもり」と衝撃的な回答をした参加者は「コミュニケーションに長け、自分の信じるものと相手の信じるものをどちらも尊重する力を見習いたいと感じました」と、劇的な変化を記したという。

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冒頭の横断幕は、トークイベントから出張事業、アイデアソン、成果発表会とすべての会場に掲げられた

「ほかにも感想として『新しい発見があった』『考え続けることが大事なんだ!』『明日から身の回りのことに目を向けたい』といった声も寄せられていた」と、初年度の活動にまずは一定の達成感を得られたと3名は振り返った。

普段交わることのない部署同士が共通する思いを胸に、現場主導で進めていった本プロジェクト。互いに目指す方向は一緒ながら、プロジェクトの進め方や役回りの難しさなど、衝突は多かったという。そこを乗り越えようやくカタチになった“共創コミュニティー”というコンセプトとプログラム。次は学生、富士通社員がリアルに交わることで見えてきた「課題と収穫」を聞く。

互いに学び合う場づくり、2年目に向けて ――あしたラボUNIVERSITY 1年目の挑戦(後編)に続く

互いに学び合う場づくり、2年目に向けて ――あしたラボUNIVERSITY 1年目の挑戦(後編)

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学生、社会人、立場を超えて“これからの仕事”を考える ――あしたラボUNIVERSITY1年目の挑戦(前編)

まず自身で課題を設定するところから

11月14日に開校宣言を行った「あしたラボUNIVERSITY」は初年度のキックオフイベントとして、まず12月15日にライフハッカー[日本版]と学生限定の共催イベントを企画。「ぼくらの仕事のつくり方  ~これからの“働く”を考える~」として、多様なゲスト4名が登壇、48名の学生が参加した。2015年に入ってからは上智大学経済学部(1月13日開催)と大分大学(2月4日開催)で、富士通総研 黒木昭博さんをファシリテーターにそれぞれ約30名の学生に向けた「出張授業」を開催した。

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2014年度のあしたラボUNIVERSITYスケジュール

2月後半には「あしたラボUNIVERSITY」のコアイベントとなるアイデアソン「あしたのまちHack」を実施。関東(2月19~20日開催)、関西(2月26~27日開催)の会場には、それぞれ約40名の学生と富士通社員約15名が集結。このプログラムでは「課題設定からはじまる、“これからの仕事のつくり方”」や「身近な社会課題の解決を視野に入れながら、それを自分ごとにする」、「学生と社会人が対等な立場でディスカッションする」など多様な要素が盛りこまれた。

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アイデアソン 課題選考会の様子。事務局スタッフ総出で選考を行った

さらに、アイデアソンへの参加を希望する学生に対しては、「あなたが感じるまちの課題は何ですか?」をテーマとした事前課題を設定。その結果、日本全国から約400ものエントリーが集まった。梅津さんはその狙いを「インターンシップとして参加してくる学生さんもいるなかで、『自分が選ばれてこの場に来た』ことを感じて欲しい考えた」と話す。なかには映像作品にまで仕上げた学生も。運営事務局は1つひとつの作品を読み込み、1つずつ「自分ごと」がどこまで本人が腹落ちし、深く考えているか、それが課題から伝わってくるかを確認していった。

“自分ごと”はこんなにも心に響くんだという驚き

参加者を選ぶにあたっては、事務局全員が集まり、審査基準を設けて選考を行った。通ったものとそうでないものを違いを一言で表すと「自分ごとで考えているかどうか」。「“自分ごと”で考えられているものはこんなにも心に響くんだ、とあらためて感じさせられた」と浜田さんは話す。

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アイデアソン選考会では学生から提出された課題1つずつじっくり見ていった

その「自分ごと」への視点は、その後のアイデアソンのプログラムにも踏襲された。アイデアソンは『私のまちの魅力を100倍にする』が大きなテーマとなり、「自分で課題を発見してもらうことに重きを置いた」と川口さんは続ける。

「アイデアソンを通して感じ、考えてほしいと設定したテーマ“これからの仕事づくり”は、誰かが問いを出し、それに対して言われた通りにつくるのではなく “そもそもの課題はなんだろう?”と、課題追求からはじまるもの。それがあるから、みなで一緒に解決できるのだと考えています。だから事前課題ではその課題をどこまで自分ごとできるかを重視しました。そこを突破した人が参加したアイデアソンでは、参加者が嫌になるほど、“課題は何?”と考えを深めてほしかったんです」

忘れかけていた“野心”を思い出した

こうして開催されたアイデアソンには、富士通社員も学生と同じ立場で脳に汗かくメンバーとして参加した。採用センターの永田久美子さんは、梅津さんとともにプロジェクト運営に加わりながら、関西アイデアソンでは、1人の参加者として参戦した。参加社員の立場から、次のような感想を持ったと言う。

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富士通株式会社 人事本部人材採用センター 永田久美子さん

「私は社会人1年目ですが、忘れかけていた“とがっている感覚”を思い出しました。学生って、野望や夢みたいなものを持っているじゃないですか。この1年で、いつの間にか忘れてしまっている自分がいた。学生さんと対等な立場で話せる場に身を置き、そういう気持ちを思いだして働かなきゃいけないと思ったし、そういう姿を学生さんにも見せていきたいと思います」

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(写真右から2番目)アイデアソン関西大会に参加した採用センターの永田さん「私自身初心に帰るとともに、それを参加した学生に教えられたように思えます」

また、採用センターメンバーの立場からも「画一的な採用になりがちですが、こういうプロジェクトがきっかけになって、世の中が少しでも変わっていくようなアクションを起こしていきたい」と、意欲を見せた。

全員がフラットにものを言い合う環境づくり

アイデアソン当日、イベント運営のコアメンバーはオリジナルTシャツに身を包みイベントを運営。ネームプレートには「戦略企画室」「採用センター」「FRI」などの“肩書き”はなく、社員も学生も分け隔てなく、積極的に交流を深めた。

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どの会場でも学生と社会人から満足度の高いアンケート結果が得られた

「所属部署や肩書きなんて気にせずにその場にいたのが、私たちも楽しめた一因だと思います。イベントが終わって雑談するまで、学生さんたちに採用センターの人間だと気づかれなかったほどで(笑)、あくまで“私”として参加できました」(梅津さん)

梅津さんは運営スタッフ2名とともに、関東大会最優秀賞チーム“ばすっち”のワークをサポートした。しかしチームメンバーにとっては誰がどんな立場にいるのかなんて関係がなく、あくまで梅津さんたちは“その場にいた富士通の人”。その場はまさに、社員と学生が一体となった“共創コミュニティー”だったと言える。

3月に行われた成果発表会後の参加者からのアンケート結果を見ると、その思いは参加者、そして見学者にも確実に届いたようだ。当日の感想をいくつか紹介する。

・少し視点を変えることで、さまざまな発想が生まれ実用化に近いレベルまでもってこれることのすばらしさに気づきました

・自分の意見が正しいとは限らないというのを感じた。いろんな人と出会えて意見をみがいていったことで、どんどん新しい意見を出すことができたし、自分の弱点に気づけた。そしてここ数日だけで、人のつながりが学生・社会人問わず激増した

・ビジネスモデル(儲かるしくみ)や実現性について目がいきがちであるが、アイデアを出す、それを形にする上では理論(ロジック)より熱狂・熱望の方に偏ってもよいのかもと感じました。参加者の皆さんのパワーを感じました

ここで紹介した感想は1例にすぎないが、この結果を見て、梅津さん、浜田さん、川口さんはこの活動の意義が“キャリア支援”だけでなく、考え方や生き方も大きく変える機会になったのだと再認識したという。

2015年度も、ともに学びあう場をつくる

2015年度の「あしたラボUNIVERSITY」は、5月14日~15日で開催される富士通フォーラムでキックオフイベントを予定している。浜田さんは「これまで富士通フォーラムは主に顧客企業のビジネスマンをターゲットにしていましたが、“共創”という文脈のなかに、これまで以上に学生さんの力を組み込んでいきたい」と、今年度の意気込みを話す。

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この日の取材に集まった4名は、インタビューを終えてもそのまま今年度の企画の話に花を咲かせていた。「関東・関西だけではなくてアイデアソンに普段触れる機会の少ない地域にも進出してみたい」「別の特色のある他社とコラボしてもおもしろい」「出張授業の大学も増やして色々な専攻の学生さんと話してみたい」……。学生からも社内からもポジティブな反応が得られたことが自信となり、次期の活動はさらに輪を大きく、深くしていく予定だ。

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最初は何も書かれていなかった横断幕は、成果発表会終了後ぎっしりとメッセージが詰まっていた

「あしたラボUNIVERSITY」は、まだ1年目を終えたばかり。3名は「今後も継続していくこと」を強調した。今回参加した1期生のメンバーが「あしたラボUNIVERSITY」の後輩たちとつながりを持ち、新たなイノベーションを生み出す――。そんな未来がくるのも、そう遠いことではないはずだ。

学生、社会人、立場を超えて“これからの仕事”を考える ――あしたラボUNIVERSITY1年目の挑戦(前編)

人気の再開発エリア、居住者のつながりをつくる挑戦 ──川崎市中原区武蔵小杉・再開発地域のコミュニティーづくり(前編)

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長期的なまちづくりに必要なのは居住者の特性を反映した「共通のテーマ」 ──川崎市中原区武蔵小杉・再開発地域のコミュニティーづくり(後編)

大規模開発で工業地域から人気の「住みたいまち」へ

近年、特に都市部の課題として「隣同士でも顔を知らない」といった、居住者のつながりの希薄化が問題視されて久しい。そんななか、震災をきっかけとした防災意識の高まりや、子どもや高齢者の見守り体制の重要性が広く認識され「地域コミュニティー」の価値が再び見直されはじめている。過去あしたラボでも、山崎亮さんインタビューや震災復興の過程で新たなコミュニティー形成に取り組む神戸などを紹介してきた。

地域の居住者による活発な交流は住環境を良好にするだけではなく、まちの魅力向上や活性化につながる。再開発により従来からの居住者と新たな居住者が生活する武蔵小杉駅周辺地域は、どのような変遷をたどってきたのだろうか。

再開発プロジェクトが進む武蔵小杉駅周辺地域は、タワーマンションと複合商業施設が建ち並び、JR南武線、東急東横線、JR横須賀線(2010年開業)が交わり交通の利便性も良いことから、首都圏「住みたいまち」のアンケート調査で上位に入ることが多い。

もともと日本の高度経済成長を支えた工業地域だったが、21世紀に入ると工場の撤退が相次ぎ、その跡地につぎつぎと建設されてきているのがタワーマンションや高層マンションだ。2007年から開発がはじまり、最高層が地上59階におよぶタワーマンション群に加え、商業施設、公共施設が新設され、かつて工場とグラウンドだけだった駅前の風景は一変した。10年間で約6,000戸のマンションが供給され、人口は約1万5,000人増えたことになる。

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これから再開発が進められる北口エリア周辺の整備方針を表した図
(「小杉駅周辺地区小学校新設基本計画書」P10より抜粋)

プロジェクトはいまも進行中だ。北口エリアには住宅だけでなく、商業施設、小学校が新設され、病院の建替も予定している。1つのまちが誕生するくらいの勢いとなると新たな居住者の増加により地域のコミュニティーづくりが課題になってくる。

地域をつなぐ“エリマネ”とは何か

再開発計画が実行に移されようとしていた2005年、この地域の一体的な開発・整備を目指していた川崎市まちづくり局の主導で各部会が開かれた。町会やボランティア活動の人たちによる市民部会と商店街を中心とする商業者部会、建設業者を中心とするデベロッパー部会。それぞれの立場から、マンションが新築され新しい居住者が入って来たときにコミュニティーをどのようにつくるか、という課題を話し合った。

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NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント理事長 安藤均さん

その結果2007年に設立されたのが、「NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント(以下エリマネ)」だ。地域の居住者や企業、市民団体などに横のつながりをもたらし、地域の居住者主体のコミュニティーづくりを促す事業を運営する組織で、1世帯月額300円、年間3,600円を各マンションの管理費から徴収し、活動の原資にしている。

エリマネ理事長の安藤均さんは「もともと私も地元の人間ですが、当初理事は地域の居住者を中心とする地元の方々などが務め、マンションが1つ建ち、2つ建ちするうち、マンション管理組合から新しい理事が1人、2人と増えていきました。発足当時はこんなに大規模な再開発になるとは誰も予想できませんでしたから、やはり行政の支援がないとはじまらなかったと思います」と、エリマネ設立時からの経緯を振り返る。現在の理事20名のうち、ほぼ半数が新築のタワーマンションの居住者。会員は、9棟約5,000戸を数える。

2013年には武蔵小杉周辺地域におけるコミュニティーの現状や課題を把握するため、マンションや町内会・自治会、NPO法人や商店街など、関係主体に対して中原区のまちづくり推進部地域振興課によってヒアリング調査が行われた。

その結果、マンション居住者は地域情報の入手や子育て環境、防災対策に関する情報を求めていることがわかった。また、町内会・自治会やNPO法人はそれぞれ独自に居住者同士の交流を促進する活動をしているものの、運営する人材や資金面等で、課題があるのが現状だ。

エリマネはこのような地域の取り組みや問題意識を広く把握し、関連団体との連携を促す存在でもある。

地域の居住者をつなぐコミュニティー活動

エリマネが運営するコミュニティー活動は多岐に渡る。「パパママパークこすぎ」は乳幼児の親の交流サロンで、参加者は年間1,500人を超す。毎月1回の「地域清掃活動」や、ボランティアで運営され、高層マンションならではの防災対策を講じる「防災ワーキンググループ」、自然や文化などの地域資産を学び、地域の課題を居住者自ら発見し解決する「こすぎの大学」、年2回の機関誌「こすぎの風」の発行などがある。

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エリマネはさまざまなアプローチで居住者交流の場をつくっている
(提供:NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント)

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パパママパークこすぎの様子。イベントに参加しながら、お互いの育児の悩みを相談しあえる(提供:NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント)

とりわけ、2011年から開催しているハロウィンに合わせた「コスギフェスタ」は、仮装コンテストやスタンプラリー、ステージパフォーマンスなど、子どもたちを中心にとても賑わい、2014年はのべ5万人が参加した。模擬店や清掃ボランティア、安全管理ボランティアなどで商店街や周辺企業も協力し、マンション居住者と周辺地域の人々がふれあうきっかけの1つになっている。

「昨年ははじめて、大人向けに駅前通り商店街を舞台にしたイベントをコスギフェスタ内で実施しました」と安藤さん。「食べ歩きチケットを使い参加店で注文できる、というもの。新しくできた複合商業施設で武蔵小杉駅周辺地域は人気ですが、古くからの店でもいいところがたくさんあるのを知ってもらいたくて」

食べ歩きチケットは約600枚ほど売れた。タワーマンション再開発地域で、人なつっこいまちのぬくもりを残す商店街は貴重な資産の1つ。参加者の数は2013年は3万人、2014年は5万人と、「コスギフェスタ」への地域の人たちの関心はうなぎのぼりだ。第1回目は数百人規模のイベントにすぎなかった。これもエリマネが地道にコミュニティー活動を続けてきた成果だろう。

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思いおもいの仮装をした子どもたちで盛り上がった(提供:NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント)

マンション居住者も横のつながりを求めている

「武蔵小杉駅周辺地域の新たな居住者は30〜40代の子育て世代が多く、たとえば子育ての視点でみると、みなさん横のつながりを求めています。“パパマママパークこすぎ”を通じて友だちが増えた、といった声を聞くと活動を続けていて良かったと思いますね」と安藤さんは話す。

2011年の東日本大震災は「防災」の観点からマンション居住者がコミュニティーの大切さを思い知るきっかけになった。

震災当日、横須賀線武蔵小杉駅近くのレジデンス・ザ・武蔵小杉だけがなぜか停電しなかった。通常であれば管理組合の規定によるセキュリティの関係でマンション居住者以外は建物内に入れないが、偶然にもエリマネの防災ワーキンググループに参加してつながりを持っていたため、1階のエントランスを全面開放し、緊急用の毛布なども支給。

ふだんから地域居住者同士の横のつながりがあることがいかに大切かを居住者が意識するきっかけとなった出来事だった。

コミュニティーの希薄化という課題に対し、多面的なテーマのコミュニティー活動を地道に続けることで人や地域とつながる機会づくりを進めてきた武蔵小杉駅周辺地域。今後も開発が続いていくなかで、どのような構想のもとにまちづくりを進めていくのか。後編では行政側の関係者に話を伺い、このまちの将来像に迫る。

長期的なまちづくりに必要なのは居住者の特性を反映した「共通のテーマ」 ──川崎市中原区武蔵小杉・再開発地域のコミュニティーづくり(後編)へ続く

関連リンク
NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント
平成25年度小杉駅周辺の新たな魅力づくり推進事業報告書(概要版、PDF)

長期的なまちづくりに必要なのは居住者の特性を反映した「共通のテーマ」 ──川崎市中原区武蔵小杉・再開発地域のコミュニティーづくり(後編)

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人気の再開発エリア、居住者のつながりをつくる挑戦 ──川崎市中原区武蔵小杉・再開発地域のコミュニティーづくり(前編)

20〜30年後のまちをイメージして、持続可能なコミュニティーをつくる

行政からは川崎市まちづくり局がコミュニティー形成を促してきたが、2013年度より、居住者に近い組織である中原区に「地域コミュニティ強化担当」が設けられた。これにより、居住者が主体となって活動しながら区がコミュニティーづくりをサポートする体制ができあがった。

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地域居住者、商店街事業者、企業、学識経験者、行政が一緒になって地域の課題と持続可能なコミュニティー形成について議論する「武蔵小杉駅周辺地域連携推進委員会」を立ち上げた。さらに、2014年度は更にワーキンググループやビジネスコミュニティ検討会等の部会を発足させ、より具体的な議論を進めるとともに、コミュニティフォーラムを開催し、区民に対してコミュニティー形成に向けた取組や地域の活動事例を発信している。

中原区役所まちづくり推進部の東伸享さんは「まちの長期的な課題を整理し、20年、30年先のこのまちの姿をイメージしたうえで、いまどのような取り組みが必要であるか考えなければなりません」と語る。

「居住者の入れ替わりが激しくなればコミュニティーは希薄化するし、転勤や進学などで転出者が増え転入者が減れば人口減少、高齢化が進みます。今後のまちの課題を分析しながら、持続可能なコミュニティーの形成と武蔵小杉駅周辺地域の人たちが住み続けたいと思う魅力あふれるまちづくりに向け、地域が一体となって検討をはじめたところです」

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中原区役所まちづくり推進部 東伸享さん

マンションの居住者は、当然ながら互いに見知らぬ者同士。しかも、フロアごとにセキュリティがかかるようなプライバシーの確保された空間のタワーマンションでは、なおさらコミュニティーができにくい。

こうした地域においては、今後の地域を構成する主体・関係者の地域への関与や、コミュニティガバナンスの在り方を探りつつ、地域が一体となった取り組みを行うことで、地域の主体・関係者の間で協力関係が構築できる。それにより、居住者のまちへの愛着、誇りが生まれ、地域にふれあいと交流が創出され、住みやすいまちづくりにつながるのではないだろうか。

中原区のコミュニティー形成事業に協力する株式会社富士通総研(以下FRI)の上保裕典さんは「地縁型ではなくテーマ型のコミュニティーづくりが必要」と話す。

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株式会社富士通総研の上保裕典さん

「多くのみなさんが共感できる価値、関心を寄せるテーマは〈子育て〉と〈防災〉であり、子育て世代のライフスタイルに合わせた〈安心・安全なまち〉というコンセプトが浮かび上がります。そうしたテーマのもと互いに顔の見える関係になってくれば、20年、30年たつとおのずと地縁型のコミュニティーも生まれてくるはず。まちとして成熟してからでは遅いので、今から準備しておく必要があります」

武蔵小杉駅周辺地域の場合、再開発をリードする特定の企業があるわけではなく、複合商業施設のテナントをはじめ、多種多様な企業がおのおのの立場で地域に関わっている。そのためまちの特色が出にくいが、これも上保さんによれば「共有できるテーマ、価値観」を議論して探るのが望ましいという。

「いきなりイベントを新しくやろうとしても、なかなかまとまりません。だけど、たとえばある企業が独自に実施しているボランティア清掃活動に、他の企業やマンション居住者も参加してみるといった、すでに行われている個別の取り組みを広く伝播していく手法が、コミュニティー形成のきっかけづくりには有効です」

そういう意味では、武蔵小杉駅周辺地域ではエリマネを中心として、各マンションや企業をつないで活動の場づくりをし、徐々にそのコミュニティーを広げつつある。

一連の取り組みによって、武蔵小杉周辺地域はどのようなまちになっていくのだろうか。上保さんに聞くと次のような答がかえってきた。

「私は、本当の意味での『スマートコミュニティ』が武蔵小杉周辺地域で実現するのではないかと考えています」

武蔵小杉駅周辺地域で本当の「スマートコミュニティ」を実現したい

「スマートコミュニティ」とは、新しい電力制御技術とICTを組み合わせたエネルギーの有効活用をはじめ、市民の利便性・快適性の向上、安全・安心の確保を目指したまちづくりのことを指し、近年、まちづくりの領域で注目を集めている考え方だ。

社会インフラとしてICTの発展、普及が進んでいることを背景として、武蔵小杉駅周辺地域のように大規模な再開発をおこない、最新のICT設備を完備できるエリアを中心に、その取り組みが加速している。

しかし、その実際について上保さんは「インフラの検討が先行してしまい、居住者が実感できるような『生活価値』の検討が後回しになりやすい」と現状分析する。

「居住者が地域に愛着を持ち、ここで住み続けたいというようなことを感じていなければ、結局、いくら良いインフラが整備されても、同じ状況だと思います」

一方で、武蔵小杉駅周辺地域は再開発による利便性等が注目されているが、それと並行して中原区やエリマネ、町内会・自治会等が中心になってコミュニティー形成や、まちの魅力づくりも同時に進めている。

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まちなかの防犯上の死角を探す、地域安全マップつくりの様子
(提供:NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント)

上保さんの言葉を借りれば「居住者が地域に愛着を持ち、住み続けたいと思えるような『生活価値』を創出している」のだ。そのことを踏まえて、上保さんは次のように期待を語った。

「今後、この取り組みを通じてもっとコミュニティーの形成、まちの魅力を高めるための『地域ニーズ』というものが顕在化してくると思います。今度は、それをどのようにハード整備に反映していけるのか。ソフトとハードを一体的に考えて進めることができれば、真の『スマートコミュニティ』がここ武蔵小杉で実現できるはずです」

一方で、武蔵小杉駅周辺地域と同様に、地域コミュニティー形成に取り組んでいる地域は多い。しかし、全てがうまくいっているわけではないのが実情だ。上保さんは次のような失敗要因を挙げた。

「それは中心的存在の不在。阻害要因としては、地域にいる居住者や自治体、企業といった、さまざまな主体をまとめつつ、それぞれを結びつける中心的存在がいないということが挙げられます。その点、武蔵小杉駅周辺地域の場合は開発当時からエリマネが関与しており、地域の居住者だけでなく、地域の多様な主体が相互につながりつつあります」

マンションのフロア交流会はコミュニティー形成の第1歩

コミュニティーをうまく形成しつつある武蔵小杉にも差し迫った課題があると安藤さんは語る。それは、「コミュニティー活動を運営する担い手の発掘」だ。

「マンション居住者の大勢を占める30〜40代の子育て世代は働き盛りで多忙ですから、コアメンバーは少ないのが現状です。仕事と生活優先は当然のこと。強制はできません。お願いの仕方も『できる範囲で結構ですからご協力いただけませんか』となる。新しいマンションができたときに、コミュニティーづくりに関心のある方々といかに出会えるか、それが今後重要になってきます」

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3月に行われた、こすぎ防災フェス2015の様子。災害時の非常食をつくるワークショップが行われた
(提供:NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント)

たとえば、〈子育て〉と〈防災〉というキーワード。また、子どもが参加するスポーツイベントやコスギフェスタをきっかけに親同士の交流がはじまることもある。

東日本大震災以降は、武蔵小杉駅周辺地域の各マンションで「フロア交流会」が盛んになっている。「フロア交流会」とは、同じ階に住んでいながら普段交流がない居住者同士のつながりを生むための交流会だ。これは、いざというときに見知らぬ隣人では助け合えないので、防災委員が音頭を取って、せめて同じフロアで顔なじみになろう、というタワーマンションが建ち並ぶ、この地域ならではの独自の取り組みだ。

こうして、ご近所づきあいがはじまり、コミュニティーづくりへの身近な第1歩をまず踏み出しているのだという。

再開発で新たな人口が流入する都市部では、過疎化が進む地方部とはまったく違ったまちづくりの課題を抱えている。時にはコミュニティーそのものをゼロから築き直さなければならない。カギは、多くの居住者が「自分ごと」として共感できるテーマを見つけることにあるようだ。武蔵小杉駅周辺地域が取り組む地域コミュニティーを基盤とした安心・安全なまちづくりは、日本における将来の都市像を考えるにあたり、貴重な示唆を与えてくれる。

人気の再開発エリア、居住者のつながりをつくる挑戦 ──川崎市中原区武蔵小杉・再開発地域のコミュニティーづくり(前編)

関連リンク
NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント
平成25年度小杉駅周辺の新たな魅力づくり推進事業報告書(概要版、PDF)

【体験レポート】Medical × Security Hackathon2015に行ってきました(前編)

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福島のスキー場に全国から50名以上が集結

こんにちは。あしたラボ編集部の武田です。

少し前になりますが、2015年3月7日(土)〜8日(日)に、福島県にある星野リゾートアルツ磐梯スキー場にて「Medical × Security Hackathon2015~医療に革命を起こそう~」が開催されました。今回、編集部で見学・参加したので、その様子をレポートします。

医療やセキュリティにおける問題の解決について多様なメンバーでアイデアを出し合い、解決策としてのサービスプロトタイプを開発することで、福島から新しい医療のあり方を創造していくことを目的としているMedical × Security Hackathon。今年で4回目の開催となる本ハッカソンは、あしたラボにもたびたびご登場いただいた山寺純さんが代表を務めるEyes, JAPANが事務局を担っています。

今年のMedical × Security Hackathonは全国から50名以上の参加者が集まるなど、会場のアルツ磐梯スキー場は熱気に包まれていました。参加者のなかには、これまであしたラボにも登場した方や、編集部と顔見知りの富士通関係者の姿もありました。

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参加者の熱気に包まれるハッカソン会場

競技はアプリ・サービス部門とセキュリティ部門に分かれており、参加者はどちらかの部門を選びます。今回、編集部は富士通から参加したメンバーを中心に構成したチーム(以下、富士通チーム)に密着しつつ、アプリ・サービス部門の競技の様子を取材しました。

スキー場や遊覧船上で競技が開催される理由

このハッカソンに参加して驚いたのは、その充実したプログラム内容です。会場がスキー場(アルツ磐梯)であることにも驚かされますが、それ以外にもプログラムの最初から最後まで参加者を楽しませ、本気にさせる仕掛けが満載でした。

東京からの参加者のために専用の往復バスが用意されたほか、参加者へのリフト券や食事券、仮眠所の提供、さらには懇親会イベントや特別イベントが催されました。そして審査結果の発表は、なんと猪苗代湖の遊覧船上で行われるのです!

「参加してくれるメンバーが集中力を切らさずに、望めば24時間でも開発し続けられる環境を用意することが大事だと思っています。また、特別な場所での開催となれば、参加者のテンションも上がる。そういう背景からアルツ磐梯スキー場を会場に選びました」と、本イベントを運営するEyes,JAPAN代表の山寺純さんは話します。

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Eyes,JAPAN代表の山寺純さん

さらに、湖上の遊覧船を利用するのは以下のような理由から、と続けます。

「一方で、ハッカソンは開発するだけではなく、参加メンバー同士が新しい関係を築ける場であってほしい。それに主催者側としては、審査結果の発表において特別感の演出もしたい。そんな思いから地元でも有名な<かめ丸>を発表の舞台に選びました。猪苗代湖を<かめ丸>で遊覧しながら結果発表をするわけですが、発表後もクルーズは続くので、しばらくは船上で時間を過ごすことになる。その間はどこへも行けないので、おのずと参加者の一体感は高まりますし、コミュニケーションするきっかけも増えます」

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審査結果発表の会場となった遊覧船「かめ丸」

山寺さんの狙いどおり、競技時間外にも参加者は多くのしかけに驚嘆・感動し、会話のきっかけとしていたようです。そのような会話が参加者間に新たな関係性をつくり出します。Medical × Security Hackathon2015には、コミュニティーを創発するためのしかけが随所に散りばめられていました。

Medical × Security Hackathon2015に行ってきました(後編)へ続く

【体験レポート】Medical × Security Hackathon2015に行ってきました(後編)

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競争&共創の場が参加者の成長を促す

当初、編集部は取材を目的にMedical × Security Hackathon2015に参加しましたが、競技を取材するなかで富士通チームに巻き込まれ、最終的にはチームメンバーとして作業の一部を担当することになりました(笑)。運営ルールとして禁止されていること以外、基本は何でもありのハッカソンらしい展開です。

全9チームでの競技となったアプリ・サービス部門において、編集部が協力したチームは3位でした。アウトプットは、2020年のオリンピックイヤーを見据え、国籍や言語を問わず直感的にスマホから119番緊急通報ができるというアプリ。「知らない国や土地において緊急通報ができずに困っている人を助けたい」という思いで開発されました。

優勝を目指して開発を進めただけに、3位という結果はチームメンバーにとっては大変悔しいものでした。しかし、医療分野で活躍する方やビジネス経験豊富な審査員の方々からフィードバックをもらったり、優勝・準優勝したチームと自分たちのアイデアや成果物の差を分析したりすることで、自分たちにどのような視点やアウトプットが足りていなかったのかが明確になりました。勝ち負けに一喜一憂するのも競技であるハッカソンの醍醐味の1つですが、負けた場合でも多くのことが学べるのがハッカソンの良いところですね。

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3位となった富士通関係者チーム

そのほか、今回のハッカソン取材を通し、他の参加者からも多くのことを教わりました。いくつかご紹介したいと思います。

「看護の現場にいるからこそ見える課題」でもぎ取った高評価

看護の現場にふさわしいICTサービスの企画を目的に参加された、看護師の小林美穂子さん。“医療・介護を受けている人に最大の利益を与えられるようなサービス”を考えるなかで、医療をテーマとしたイベントを探し見つけたのが、このMedical × Security Hackathon2015。自身の仕事とも関係する医療関係ハッカソンへの参加ははじめてだったようですが、勇気を出して飛び込んでみたそうです。

アイデアピッチ/チーミングでは、看護の現場で発生する患者さんの切実な課題を訴え、その解決をともに行ってくれる仲間を募りました。

病気による失禁のため、病院にはおむつを必要とする患者さんがいます。失禁によっておむつが汚れた状態が続くと、患者さんの皮膚トラブルにつながることから、失禁後はできるだけ早くおむつを取り替える必要があります。しかし、現状の確認手段としては看護者による定期的な確認が主となっており、失禁とその確認に対するタイムラグが生まれています。また、定期的な確認は患者・看護者双方にとって負担が大きいため、この問題をICTでなんとかしたい! 小林さんは参加者へ訴えました。

彼女の強い想いに共感したエンジニア(なんとGUGENにも参加していた上田浩さんの姿も!)や研究者たちがチームメンバーとして加わりました。開発の途中でデザイナーも助っ人として加わり、当初のアイデアやサービスイメージが洗練されていきます。最終的には、患者さんのおむつの水分を検知し介護者へ通知する「Wet Catch」というサービスができ上がりました。そのアウトプットは、プロトタイプの完成度や課題に対するアプローチ、プレゼンテーションなどが評価され準優勝となりました。

小林さんは、「デザイナーやエンジニアとともに課題解決にのぞむことで、アイデアやサービスの本質が明確化され、かつプロトタイプとしてかたちになったことに大きな可能性を感じるなど、自身にも大きな学びがあった」と話します。本人は「アイデアを実現する技術力がないため、実現に向けて必死にお願いするしかなかった」と話しますが、結果として、そのような姿勢が他の人たちの共感を集め、共創の輪をつくっていったのかもしれません。

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準優勝(2位)に輝いたチーム。写真右が発案者の小林さん

優勝の栄冠に輝いた、10代の学生チームが語るハッカソン

今回のハッカソンで見事優勝の栄冠を勝ち取ったのは、会津大学の学生3人(なんと平均年齢19.5歳!)で編成されたチーム。そのアイデアは、緑内障検査のハードルを低くするためのもので、ゴーグルのなかに投影される検査用の特定イメージを注視し、イメージどおりに見えない場合は検査者に緑内障の可能性があることを教えてくれるというもの。日本において失明原因の第1位を占めるのが緑内障であり、少子高齢化の進む日本では大きな社会問題になる要素をはらんでいます。

メンバー全員が学生ということで、医療行為経験やビジネス経験がないという点については、競技中にさまざまな分野のプロフェッショナルである審査員の方々にアドバイスをもらうなど、積極的にアプローチする姿が印象に残りました。最後は、持ち前の技術力と見事なプレゼンテーションにより、審査員の方々から「医療従事者の立場からも、すぐに使いたいサービス」とコメントをいただく結果に。

すばらしいプレゼンテーションを披露してくれたこのチームのリーダーである丸山滉太郎さんいわく、実はプレゼンテーションが苦手だったそうです。別の機会に参加したハッカソンで、プレゼンテーション時に悔しい思いをした経験から、練習を重ねることで今回の見事な結果を手に入れました。また、彼にとってはハッカソンに参加することで、大学では得ることができない経験をし、それが学業のモチベーション向上にもつながっていると言います。学んでいることと社会との接点を確認する場としても、ハッカソンは機能するのかもしれません。

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優勝に輝いたチーム。写真中央がリーダーの丸山滉太郎さん

2日間と短期間ではありますが、Medical × Security Hackathon2015には、「競争を通じた仲間たちとの切磋琢磨の場」という側面と、“困っている人たちのために何かをしてあげたい”という想いを持った人と、それを支える仲間たちの創発の場」という側面の2つが見られました。

ハッカソンを通じて生まれた新たな関係性。そこから、新しい医療の形が生まれてくるかもしれない――。Medical × Security Hackathon2015は、そのような期待を抱かせる素敵なハッカソンでした。

Medical × Security Hackathon2015に行ってきました(前編)


『無責任からテーマを探す』共創の新しいスタイル ――ビズラボ体験記(前編)

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「ビズラボ」とは?

ビズラボは、ビジネスリーダーを対象とした事業コンセプトの創出を目的に、講座と共創を試行する場。一般応募者から選出された20名がおよそ3カ月、それぞれの課題に取り組みます。プログラムは大きく分けて、座学形式の講座、リアルツアーとグループワークの3つで構成されています。

まず、講座では異業種連携の進め方、ビジネスモデル、知財戦略など新規事業開発に必要な知識を短期集中で学びます。講師を務めるのは、システム・インテグレーション株式会社 代表取締役の多喜義彦さんです。多喜さんは、製造業を中心とした新事業開発を、40年にわたり3,000件も支援してきた実績をお持ちです。

『無責任からテーマを探す』共創の新しいスタイル ――ビズラボ体験記(前編)多喜さんの講義は市場変化の潮流から、共創のエピソードまで幅広いものでした
(提供:日経BP社「リアル開発会議」)

リアルツアーは、事業開発の現場を観察し、新規事業のリーダーから直接出会い、対話を行うプログラムです。新規事業の開発を専門に活躍されている野村総合研究所 新規事業コンサルタント 石井宏治さんのコーディネートのもと、さまざまな分野で事業創造の推進リーダーとして活躍する方を訪問しながら、事業成功の秘訣や取り組む際の心構えをヒアリングします。

今回は、球場一体型のスポーツクラブやシナプソジー(脳を活性化するプログラム)など、ユニークな発想のサービス開発を進めているスポーツ事業運営会社の株式会社ルネサンスと、ポケットナイフの製造からスタートし、現在ではキッチン用や生活用から、医療用、業務用まで1万アイテム開発・販売している貝印株式会社を訪問しました。

『無責任からテーマを探す』共創の新しいスタイル ――ビズラボ体験記(前編)
最終報告会の様子。多喜さんから厳しい指摘が飛びます(提供:日経BP社「リアル開発会議」)

プログラムの最後となるグループワークでは講義とリアルツアーで得たノウハウをもとに、チームでアイデア出しやビジネスコンセプトを検討、最後にプレゼンテーションを行います。この最終プレゼンテーション準備のために、自主的に集って検討を行ったり、徹夜して資料をそろえたりするグループが多く現れ、プレゼンテーション当日の参加者全員の熱気は最高潮でした。

今回は、メーカーを中心に新規ビジネス開発に携わる企画、技術、知財担当者から国家公務員、経営者までさまざまな背景をもつ参加者が集まりました。みなさんの目的は、新しい事業開発のための技術交流、行き詰まりを感じる現在の開発に対する打開策の模索、新たに事業開発部門に配属されてこれらの活躍を期待されて派遣されたなど、今抱えているビジネスの課題を解決するため。不確実性の高まる市場環境を見据えて、リーダーシップを発揮しながら、果敢に市場開拓を推進するヒントを得たいという方が多かったように思えます。

共創を実現させるための思考法 「Field Alliance」

講義では、多喜さんが新規事業開発の勘所を伝授します。そのなかでも繰り返し重要だと強調していたのは共創を実現するための「Field Alliance(以下 フィールドアライアンス)」という考え方です。

「フィールドアライアンス」とは、多喜さんが考案した「異業種で“事業の場=フィールド”を共有し、他社が侵入できないより大きな場とすることを目的とした連携スキーム」のことで、既存の商品やサービスをアライアンス企業のフィールドに展開して相互にニーズやシーズを共有することで新たな事業や商品の展開、事業機会の飛躍的な拡大を目指すことを目的としています。

ある部品メーカーでは、コストカットと品質管理の努力によって、競争力の高い製品をつくりあげ、その商品を特定業種向けに販売していました。そこに「フィールドアライアンス」の考えを持ち込み、異業種への提供を実施したところ、今までと比較して10倍の価格で販売が可能になったといいます。この事例は極端な例ですし、実際すんなりといくはずはないのですが、業種の際を越えた瞬間に価値が大きく変わる可能性があることを示唆しているのではないでしょうか。

さらにもう1つ、重要性を強調していたのが、このような新しい可能性を模索するにあたってのルール、「Noといわない」「責任のない開発」の2つです。

「Noといわない」「責任のない開発」がグループワークを目覚めさせる

グループワークは多喜さんによる公開コンサルティングからスタートします。多喜さんが、インタビューアーとなって、参加者の企業概要や課題を聞き出し、即興でビジネスのアイデアを抽出します。そのアイデアを参加者によるグループワークで膨らまし、1カ月半後の最終報告に向けてビジネスコンセプトに仕上げていく流れです。

グループワークのルールは、「Noといわないこと」、「責任のない開発」の実践です。これは、ビズラボの開始から修了式まで、常に伝え続けられる考え方の方針でもあります。他の参加者からNoと言われないので、アイデアの芽が摘まれることはありません。「それいいね」という肯定のスパイラルによって脳が活性化されます。

また、この段階では「責任がない」ので、実現性/失敗のリスクを問われることがないため、それは本当につくることができるのだろうか、投資に見合う成果が得られるのだろうかという思考のプレッシャーから解き放たれ自由にアイデアを出すことができるのです。

この考え方を通常の業務に置き換えると、アイデアを発散させるフェーズでは「Noといわないこと」と「責任のない開発」を検討時のルールとして持ち込み、ブレインストーミングを行うことで、アイデアがより膨らむのではと感じました。

後編では、このアイデア創発のきっかけから抽出されたサービスコンセプトが生まれたのか、そしてこのビズラボから考えられる共創創発のヒントをご紹介します。

実現に向けたコミットメントが共創を具現化する ――ビズラボ体験記(後編)へ続く

実現に向けたコミットメントが共創を具現化する ――ビズラボ体験記(後編)

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無責任から責任が生まれる。“ビズラボのパラドクス”は具現を促す

ビズラボに参加して特におもしろいと感じたのは、「無責任が責任を生む」という“逆説的な体験”を味わえたことです。参加者はみな、「無責任に出したアイデアに対して、勝手に責任を感じながら具体化に向けて動こう」としていました。無責任が責任を生む、勝手ながらこの状況を「ビズラボのパラドクス」と呼んでいます。

実現に向けたコミットメントが共創を具現化する――ビズラボ体験記(後編)
グループワークの様子。お互いの専門をもちよります(提供:日経BP社「リアル開発会議」)

あるチームは、「日本ジュール協会」というサービスコンセプトを検討しました。これは、ウェアラブル端末を通じて人間の日々の活動熱量を取得し、動いて発生した熱量をポイントに還元して個人の健康増進を支援するものです。このチームは、熱量をポイントに変換することをモチベーションに運動を熱心に行うユーザーを演じながらプレゼンテーションを展開、これによってコンサートで活用することでファンの思いを可視化することに使えるのではないかなど、可能性を広げる議論に発展しました。

私が参加したチームでは、日替わりで外装とメニューが変わるレストラン「日替わり店舗」というサービスのアイデアを発表しました。料理人が独立する際、「腕試しのできる場が欲しい」というニーズを軸にして、出店をスモールスタートするための店舗を日替わりで提供するというコンセプトです。料理人が腕を磨き独立するプロセスをお客さまが応援してマイシェフを育てるという体験ができるとともに、独立後のロイヤルカスタマーになることを狙いとしています。

実現に向けたコミットメントが共創を具現化する――ビズラボ体験記(後編)
プロトムービーを使ったプレゼンテーションの様子(写真左:筆者)

このアイデアは、日替わりで内装を変更させるというのがアイデア実現の要となります。プロジェクションマッピングを活用し「どの程度外装が変わると、場の雰囲気が変わった印象を与えるのか」という疑問を体感してもらうため、プロジェクターを使って会議室の様相を変える簡単なプロトムービーをつくりました。ビフォーアフターの差が分かりづらく不十分なプロトタイプだったのですが、少なくとも場の状況の変化の有効性を検証することができたと思っています。

そのほかのチームも、商標獲得を視野に入れサービス名称をつけるチームなど、資料によるプレゼンテーションで終わらず、具体化に向けた案を示しながら最終報告に臨んでいました。誰しもが自然発生的、つまり「無責任に出たアイデアだからこそ個人が責任を持って具現化する」という思いに駆られていたのではないでしょうか。

ビズラボは、ビジネスリーダーを対象とした事業コンセプトの創出を目的とした講座と共創の試行の場です。最終報告の結果として事業コンセプトの共創は実現されたと思います。この取り組みを通じて得られた気づきをどうやってビジネスにつなげるのか、そして出てきたアイデアをどう具現化するのかが参加者の今後の課題です。

共創に必要なのは「チャレンジングなテーマ」と「実現に向けたコミットメント」

「共創」とは、当事者同士の補完に収まらない価値を創出する行為だと認識しています。これを前提にすると必要な条件は、「当事者同士が取り組む意義のあるチャレンジングなテーマであること」、「顧客に対して新しい価値を提供するために当事者同士が強く実現に向けてコミットすること」なのではないでしょうか。今回、ビズラボで提唱された「責任のない開発」と「ビズラボのパラドクス」は、これらの共創の要件、特に実現に向けたコミットを生み出すことに有効だと感じました。

実現に向けたコミットメントが共創を具現化する――ビズラボ体験記(後編)
参加メンバーで集合写真(筆者:最終列の左から3番目)(提供:日経BP社「リアル開発会議」)

さらに、共通のプロセスを経験したことで、今回参加したメンバー間のつながりはとても強力になりました。今回のターム終了後、参加メンバーの企業のビジネスアイデアを検討するチームが立ち上がるなど、ビズラボから生まれたコミュニティーから次の取り組みが開始されています。共創を真に実現させるには労力と時間がかかりますが、今回の経験を糧に着実に推進していきたいと思います。

『無責任からテーマを探す』共創の新しいスタイル ――ビズラボ体験記(前編)

【座談会】「社会課題に取り組むマインドセットをどう育むか?」――一橋大学大学院特任講師・廣瀬文乃さんと考えてみた

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想いを持つリーダーと、それを支えるフォロワー

編集部・武田(以下、武田) 4年目を迎えた「あしたのコミュニティーラボ」の直近の特集は、「社会課題は誰が解決するのか?」。「企業には何ができて、何をしていくべきなのか」をテーマに、さまざまな事例を取り上げました。

【特集「社会課題は誰が解決するのか」事例一覧】

廣瀬 文乃(以下、廣瀬) (サイトを見ながら)非常におもしろそうな取り組みが多いですね。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科 特任講師 廣瀬 文乃さん
一橋大学大学院国際企業戦略研究科 特任講師 廣瀬 文乃さん

武田 はい。今回の特集は、読者のみなさんからの反響も多く、好評でした。そのほか、パナソニック有志の会・One Panasonicなどは、特集テーマにも即した優良事例でした。取材を通じて感じたのは、「強い思いを持った“キーパーソン”がコトをスタートさせている」ということ。そういうキーパーソンは、活動に苦労が伴いながらも、思いきり楽しんでいるようにも見えました。

編集部・浜田(以下、浜田) 私は企業や団体のなかに、熱さを持っている人と、冷静さを持っている人の両方がいて、両者がチーム内で互いを補い合っているという印象を受けました。One Panasonicも、代表の濱松誠さんと広報部門の則武里恵さんがうまくフォローし合ってきたことが、今の成功につながったようです。

One Panasonic結成の日、交流会に参加した写真と大坪社長(当時)(提供:One Panasonic)
One Panasonic結成の日、交流会に参加した写真と大坪社長(当時)(提供:One Panasonic)

武田 佐々木さん(富士通総研)は、日頃はコンサルタントとして活動されており、あしたラボ編集部が主催する「さくらハッカソン2014」などのイベントではモデレーターを務めています。どんなことが印象的でしたか。

編集部・佐々木(以下、佐々木) 今の浜田さんのお話にあった、リーダーを支えるフォロワーの存在はとても重要だと思いますね。あしたラボに限らず、新聞・雑誌・ネット記事などで大きく取り上げられるのは、たいていの場合、行動力のあるリーダーのみです。しかしその陰には、記事には登場しない“フォロワー”が存在している。日本だとリーダーやフォロワーが偶発的にしか生まれないところがあり、そうした役割分担を決めるにしても、お互いが気を遣い、結局シュリンクしてしまうことが多いと思います。

あしたのコミュニティーラボ編集部 佐々木 哲也
あしたのコミュニティーラボ編集部 佐々木 哲也

武田 廣瀬先生は知識をつくり実践する経営を研究されていますが、「リーダーとフォロワー」という観点ではどのように思いますか?

廣瀬 知識創造理論は、組織的に、つまり人と人、人と環境の関係のなかで知をどうやってつくるか、ということが研究のテーマです。組織のなかの人と人との関係で重要になってくるのが、リーダーとフォロワーの関係だと思います。私が卒業した一橋大学ICS(国際企業戦略研究科)のMBAコースを例にとると、60名弱の学生が集まるのですが、プログラムのはじめに行うのが高尾山でのキャンプなんです。そこでカラダを動かしながら1泊2日でチームビルディングをやってもらう。カラダを動かしながらコトにあたるうちに、チームの役割分担が見えてきます。自分がリーダーに向いているのか、それともフォローする側にまわるべきなのか。場面ごとに自分を見つめ直すという意味で、とても効果があります。

佐々木 おもしろい試みですよね。自分にリーダーの資質がなかったときに、それはいったん諦め、目の前のリーダーをサポートする「フォロワー」になる。そうしたフォロワーシップを養う機会も、これからの日本には必要なのかもしれないと感じます。イノベーションには、あまり表には出てこないフォロワーの果たす役割は大きく、フォロワーがいてチームが維持・拡大することが多々あるのですから。

役割と居場所を与えるのが、場づくりの秘訣

あしたのコミュニティーラボ編集部 武田 英裕
あしたのコミュニティーラボ編集部 武田 英裕

武田 もう1つの“気づき”は、多くの取材先で、メンバーとコミュニケーションをとるにあたり“オフライン”と“オンライン”のバランスをうまくとっていたこと。SNSのようなオンラインのつながりだけでは、やがて関係が弱まってしまう。そこで人と人とがリアルに対面できる場をつくっているんです。実にオープンな場で、出入りも自由。「来られたら来てください」くらいのゆるさを持っているのが特徴的でした。

佐々木 リアルな場をつくったプロジェクトとしては、あしたラボでも、2014年~15年度、大学機関・学生と取り組んだアイデアソン(あしたラボUNIVERSITY)を行いましたよね。

廣瀬 どのような目的で企画・運営されたのですか?

浜田 あしたラボUNIVERSITYは「富士通グループをはじめとする社会人と学生がもつアイデアを掛け合わせ、新たな価値を生み出す」、そして「学生が全国の仲間たち、ビジネスパーソンとつながり、身近な社会課題を解決するプロセスを学ぶ」ことを目的とした取り組みでした。

2014年あしたラボUNIVERSITYアイデアソン「あしたのまちHack」
2014年あしたラボUNIVERSITYアイデアソン「あしたのまちHack」

廣瀬 すばらしい活動だと思います。

武田 「社会課題の解決を目指す」という意味で、社会人が参加する場は構築されつつあるものの、“学生”が参加できる場が少ない。そうした意義もこの活動には含まれています。

廣瀬 社会人にしても学生にしても、“役割”と“居場所”があると自分らしさを発揮できるようです。その点でとても効果があると思います。誰でも「自分はこれがやりたい!」と、もやっとしたものを持っているけど、途中で迷ったり思いが高まらなかったりすることで、最初の一歩で終わってしまう。役割や居場所があることで「今度はこういうのをやってみよう」「仲間を集めよう」と次の展開につながり“想い”がどんどん膨らんでいくと思います。

佐々木 一方で、地域に特化した類似の事例といえば、自治体が産官学民の連携スキームをつくった高知県での「仕事創造アイデアソン」もありました。私はここでもアイデアソンのファシリテーターを務めましたが、高知の人たちからは「先行事例がなくても、まずはやってみよう」というマインドを感じました。

廣瀬 たしかに地方の市民協働の活動では、そうしたマインドを感じることが多いですね。社会起業家のように、社会課題を解決しよう、社会変革を起こそう、とする人たちに共通するのは、理想は高いけれども、実際にコトをはじめるときは小さくはじめて、試行錯誤(トライ・アンド・エラー)を繰り返していく、という点です。まずはやってみて、失敗から学び、修正していくわけです。

高知県といえば、日高村のNPO法人「日高わのわ会」がとても元気です。地元のママさんたちに働く場所を提供していて、子育て経験のあるママならチャイルドルームで働いたり、料理が得意なママならお弁当をつくって高齢者に配ったり、それぞれ空いている時間に自分のできることをするというしくみです。そうした循環をつくって、ちょっとずつ仕事を増やしていった。最近は、村の名産「シュガートマト」の産業振興にも力を入れています。

社員の内発的動機を高める

武田 アイデアソンやハッカソン、もしくは、NPOを交えた市民協働の場が増えることで、学生、高齢者、主婦など、非常に多様な人が集まりやすくなりました。さまざまなレイヤーの人が協働して、社会課題に取り組むハードルが下がっているのかもしれません。ではその一方で、民間企業における活動はどうでしょうか? マイケル・E・ポーターが提唱するCSV(共有価値の創造)を背景に、企業主体の社会課題解決の取り組みは、国内でも徐々に見聞きするようになりましたが、まだまだ社会的なインパクトが起きているとは言いがたいようにも感じます。

廣瀬 まさに、「社会課題は誰が解決するのか」という問いの本質部分ですね。過去に企業が行ってきた社会貢献活動は、社会課題の解決が目的ではありませんでした。2000年ごろの企業の不祥事を背景に、企業の社会的責任(CSR)が注目されはじめましたが、ガバナンスやコンプライアンスなどが主目的で、やはり社会課題の解決は二の次でした。

一方で、同じ2000年ごろからは、NPO法(特定非営利活動促進法)の施行や改正 などの後押しもあって、NPO法人が社会的課題を解決する、という動きも出てき ましたが、社会課題を解決する大きな力にはなかなかなりにくいという現実もあります。

とはいえ、2000年以降は着実に「社会課題の解決」への注目は高まってきていたのですが、そこに3.11東日本大震災が起きました。これを境に、企業も個人も社会のために何かをしたい、しなければ、という機運が一気に高まったものと思います。ヤマト運輸やローソンなどの例にもあるように、企業内の個人の思いが先にあって、組織を動かし、変えていくという流れが多いように思います。

浜田 社内活性を目的にした取り組みですが、組織に属するイチ社員がモチベーションを持って創発的な場を設けているという意味では、やはり「One Panasonic」が印象深いですね。いちばん印象的だったのは、これがあくまで業務外の活動であり、実際にお金もいっさいもらっていないこと。そのなかで会の代表の濱松誠さんがおっしゃっていたのは「業務外の有志団体で推進しているからこその強さがある」。

あしたのコミュニティーラボ編集部 浜田 順子
あしたのコミュニティーラボ編集部 浜田 順子

武田 過去にあしたラボでも取り上げた、全日本空輸(ANA)の「Blue Wingプログラム」を立ち上げられた深堀昂さんも同じようなことをおっしゃってました。社内有志が想いをもってはじめた活動であるがゆえ、苦労も多々あったそうですが、もし仕事としてやるとなったら、「果たして想いを持って続けられるのか?」といつも自分に問いかけていたそうです。

廣瀬 「時間外だからできる」「報酬があったらできない」というのはとても示唆に富んでいる話だと思います。つまりは、内発的動機で動くか、外発的動機で動くか。「アンダーマイニング効果」という現象があるのですが、もともと「ヒトの役に立ちたい」というような内発的動機でやっていたコトに、報酬というような外発的動機づけを行うと、動機が無意識に置き換わってしまって、報酬をもらえないならやらない、という考えになってしまう。そうなることを見越して、報酬をもらわないとも言えますね。欧米はどちらかといえば報酬を与えたら動く刺激反応型なのですが「そればかりでうまくいくのか」というのが日本人的な考え方だと思います。人を突き動かすには、やはり思いや信念などが必要。お金をもらったらやらされ感が出て行き詰まるのは、私にも経験があります(笑)。

自分ごと化はボールの渡し方次第

武田 実は、今年取材をさせていただいた、ソーシャルベンチャー・パートナーズの井上英之さんからも同じようなご意見をいただきました。会社に命じられるばかりの仕事をしていると、その状態からイノベーションは起きないし、共感とか愛着とは異なるベクトルで動くことになるそうです。結果、“私”と“仕事”と“世のなか”がうまくリンクせず、イノベーションが起きない……。思えばスティーブ・ジョブズも、世のなかにこういうものを残したいという思いがあったから、数々のプロダクトを追求していけたのではないか、と。

佐々木 でも、会社から命じられた“仕事”が決して悪いわけではないと思う。現に、これまでに挙がった事例には、会社に命じられてはじまった“仕事”もいくつかあります。イノベーションが起きにくい理由の1つには、企業に勤めている従業員が、自ら“仕事”の範囲を狭めているということがあるのかもしれません。仕事は「与えられるもの」「業務」、あるいは「仕方なくやるもの」というイメージがあるかもしれませんが、会社に所属しながら必要性を感じて自発的にはじめることも、本来すべて“仕事”です。こうした仕事観が、あたりまえの世のなかになってほしい。そのカギは、やはり「仕事を自分ごと化できるかどうか」ではないでしょうか。

最近、「自分ごと化」は、ふつう個人からは縁遠く感じる社会課題に取り組むにあたって、非常に重要なキーワードだと思うようになりました。私もコンサルタントとして新規事業を企画する企業と話をしますが、うまくいっているのは得てして漠然と仕事を与えられているケースです。「とにかく新しいことをやれ」としか言われていない。でもそういうときほどうまくいく。たとえば「○○市場の○○を使ったサービスで新規事業をやれ」など領域を定められると自分ごと化ができず、チームが成長しない。ボールの渡し方も重要だと思いました。

浜田 大学生とのアイデアソンも「自分ごと化」で考えてもらうことを常に意識して設計しました。実際にやってみて、自分ごとで考えてもらうことで人はこんなにもいきいきとするのか、という驚きもありました。アイデアソンには社会人も参加してもらったのですが、私も含め社会人は顧客の答えを探して仕事をする場面が多いので、自分が本当にやりたいこと=自分ごとをつくることが苦手。でもそれを見つけることで、その先の仕事のスタイル変革にもつながるのだと感じました

結局、社会課題は誰が解決するのか?

武田 今日は社会課題に対するアクションを起こすための、担い手のモチベーションやマインドセット、という観点からお話をしてきました。最後に、特集のタイトルにもなっている「社会課題は誰が解決するのか?」という問いは、なかなかひと言で答えられるものではないかもしれませんが、廣瀬先生はどのようなご意見をお持ちでしょうか?

廣瀬 私が師事した野中郁次郎先生が指摘されていたのは、本田宗一郎にしても松下幸之助にしても、彼らは「社会のために何かをしたい」という思いから事業をスタートさせているという点です。「誰かのために何かをしたい」という思いが起点にあると、強いのだと思います。しかし日本では1990年代に欧米流の経営手法の影響を受けて、そうしたものが忘れ去られ、ある種、結果至上主義の経営に変わってきました。

21世紀に入って多くの社会課題が表面化するなかで、もう一度「社会のために」という思いに立ち返ってもいいのではないか、と思います。企業が本業で社会に貢献するのは、あたりまえのこと。企業も社会の一員ですし、企業で働く人もそれぞれが社会の一員なんです。「社会」という場で、企業と人の役割を分けることなんてできないのだと思います。

だから「誰が解決するのか?」に対して、とりあえず有り体に答えるならば「みんなで」、というのが私の答え。社会のなかでそれぞれの役割と居場所を見つけ、自分のできることをやっていくのがこれからのスタイルになるのではないでしょうか。

武田 想いを持った人たちが連携し、課題の解決に取り組む。課題に取り組むなかで、それぞれの役割や居場所を見つけ、チャレンジを繰り返す文化をつくっていく。そのようなことを通じて、社会課題は解決されていくのかもしれませんね。また、お話を伺っていて、企業の従業員という立場であったとしても、目の前の仕事を“自分ごと”として受け取り直してみることで新たな可能性が見えてくるのかもしれないと感じました。本日はみなさん、ありがとうございました。

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【イベント】酒蔵アイデアソン2016 ―“東北に人を呼ぶアイデア”を考えよう!― 2月4日(木)開催

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酒蔵・日本酒の魅力を活かして、「東北に人を呼ぶアイデア」を考えよう

日本酒の名産地として知られる東北地方。震災から5年が経過するいま、蔵元が中心になって日本酒で地域を盛り上げる取り組みが各地ではじまっています。その動きをさらに後押しすべく、あしたのコミュニティーラボでは、2月4日(木)、杜の都・仙台で東北の課題解決・魅力発信につながるアイデアを創出するアイデアソンを開催します。

タイトルは「酒蔵アイデアソン2016 ―“東北に人を呼ぶアイデア”を考えよう!―」。東北の地域資源である酒蔵や日本酒をテーマに、東北に関心を持ち、実際に訪れる人を増やすためのアイデアを、参加者全員で考えます。

桜をシンボルに観光振興による東北の地域づくりを応援する「東北・夢の桜街道推進協議会」では、2015年秋より、秋の新酒シーズンに合わせた酒蔵巡りで東北の交流人口増加を促進する「東北酒蔵街道」プロジェクトを立ち上げ、一層の支援を行っています。

あしたのコミュニティーラボでは2014年春に都内で開催した「さくらハッカソン」に続き、「東北酒蔵街道」プロジェクトのスタートに伴い協議会と連携、今回初の東北開催となる「酒蔵アイデアソン」を実施し、東北を活性化させるアイデアの創出を目指しています。参加者には、現地在住の方や企業の方など、多様なバックグラウンドを持った方々40名程度が集まり、自由な発想とアイデアで地域活性策を競っていただく予定です。

また、当日は事前インプットとして、日本酒を通じた文化発信やアートによる地域活性で活躍されている方々をお招きしてキーノートを実施します。

1人目のスピーカーは、2014年からスタートした日本酒の魅力を世界につなぐアンバサダー「MissSAKE」の活動をプロデュースする一般社団法人ミス日本酒 理事の大西美香さん。日本酒を通じた文化発信や、海外の方々の日本酒の楽しみ方などを伺います。続いて、熊本県・黒川温泉郷で地域住民とクリエイターがコラボレーションし、地域の伝統文化や風景を海外に訴求するプロジェクト「KUROKAWA WONDERLAND」を主導するEXIT FILM 代表の田村祥宏さんとLetters代表の野間寛貴さんをお招きし、地域資源を活用した魅力発信の方法について伺います。

会場は、東北経済産業局(地下鉄勾当台公園駅)。参加費は無料ですのでふるってご応募ください。下記、外部リンクよりお気軽にご応募いただけます。

東北地方の地域資源である酒蔵。そして、多くの方に愛される日本酒。これにみなさんの関心事を掛け合わせながら、東北へ足を運んでみたくなる、あなたならではの魅力的なアイデアをぜひ表現してください。とくに、ふだんお酒や東北を愛するみなさんなら、きっとよいアイデアが湧いてくるはず。多くのみなさんのご参加をお待ちしています。

応募はこちらから


パスワード:sakagura
※イベント申し込みページへの遷移には、上記パスワードが必要となります。
【タイトル】
酒蔵アイデアソン ―“東北に人を呼ぶアイデア”を考えよう!―

主催(共催):東北・夢の桜街道推進協議会、あしたのコミュニティーラボ
協力:東北経済産業局

【モデレータ】
総合モデレーター:富士通総研 佐々木哲也
アイデアソンモデレーター:アイデアプラント代表 石井 力重

【出演者(予定)】
一般社団法人ミス日本酒 理事 大西 美香
EXIT FILM代表 田村 祥宏
Letters代表 野間 寛貴

【日時】
2016年2月4日(木)
10:30~19:00(受付開始:10:00~)

【開催場所】
東北経済産業局(仙台合同庁舎B棟5階)
5A・B会議室
(〒980-8403  仙台市青葉区本町3-3-1)
http://www.tohoku.meti.go.jp/somu/yokogao/map/map.html

※JR仙台駅より徒歩15分
地下鉄勾当台公園駅より徒歩3分

【受付場所】
東北経済産業局 仙台合同庁舎B棟1Fロビーにて
※応募時に入力したお名前を受付担当者にお伝えください。

【参加費】
無料

【応募締め切り】
定員をもって終了

【今回のアイデアソンで生まれたアイデアの扱い】
関連する知的財産は各発案者のものとして自由に持ち帰り活用いただけます

【当イベント事務局】
あしたのコミュニティーラボ http://www.ashita-lab.jp/

【当イベントに関するお問い合わせ先】
あしたのコミュニティーラボFacebookページ https://www.facebook.com/ashita.lab
※上記URL内の「メッセージ」からお問い合わせください。

【事務局運営時間】
平日11:00〜18:00
※土日祝日にお問い合わせいただいた場合は、翌営業日にご回答いたします。

【注意事項】
内容は予告なく変更となる場合がございます。あらかじめご了承ください。

「酒蔵アイデアソン」参加規約

この規約(以下、「本規約」といいます)は、東北・夢の桜街道推進協議会と富士通株式会社(以下、「主催者」といいます)が開催する上掲のアイデアソン(以下、「本イベント」といいます)に参加する際に、本イベントへ参加する者(以下、「参加者」といいます)に遵守していただく事項を定めたものです。

1.本イベントの概要
本イベントの概要及び参加資格・応募条件等について詳細は【本イベントの概要及び参加資格・応募条件】にて規定します。

2.本イベントのために利用する素材
参加者が、本イベントにおいて、ソフトウェアやデータ、コンテンツ、API等の素材を利用する場合は、それぞれ以下の条件を遵守するものとします。

(1)主催者が用意する素材
本イベントのために主催者が用意するソフトウェア、データ、コンテンツ、API等(以下、「主催者の素材」といいます)に係る知的財産権等の一切の権利は、主催者または第三者に留保されます。 
参加者は、本イベントの開催期間中、本イベントのためにのみ、主催者の素材を著作権法に基づく利用(著作権法に基づく複製、翻案等を行うことをいい、以下同じとします)を行うことができるものとし、本イベント終了後は、当該利用を行うことができないものとします。

(2)参加者自身が持ち込む素材
参加者は、主催者の素材以外のものを自己の責任と費用において本イベントのために持ち込み、利用することができるものとします(参加者が持ち込む素材を以下、「参加者の素材」といいます)。なお、参加者は、参加者の素材のうち、第三者が権利を保有するものを持ち込み、利用する場合、当該参加者の素材に関するライセンス条件を遵守のうえ、ライセンス条件で許諾された範囲で持ち込むものとします。
当該参加者の素材に関して、主催者に対し、第三者からの権利の主張、異議、苦情、損害賠償等の請求があった場合には、当該参加者の素材を持ち込んだ者の費用と責任において、これを解決するものとし、主催者は一切の負担をしないものとします。

3.本イベントで新規に作成する成果物
参加者が、本イベントにて新規に作成したものについては、以下の条件で取り扱うものとします。

(1)新規に作成した成果物の権利
本イベント中、参加者が新規に作成した、文書、スケッチ、図、3Dデータ、CGデータ、写真、音声、動画、ソフトウェア、ハードウェアのプロトタイプその他一切のもの(著作権、発明、アイデア、ノウハウ、コンセプト等を含むがこれらに限定されないものとし、以下、「成果物」といいます)についての知的財産権は、当該成果物を作成したそれぞれの参加者に帰属するものとします。当該参加者および主催者は、本イベントに係る成果物について、公表その他の商業上の目的のために、何らの制限なしに自由に知的財産権法上における利用(著作権法第27条、第28条の権利を含む)及び第三者への利用許諾を行い、発展させていくことができるものとします。

(2)成果物の提出
参加者は、本イベントにおいて、主催者の定める時間内に、指定の成果物を作成し、その実物、または実物が動作している様子が記録された動画等を主催者に提出するものとします。

4.禁止事項
参加者は、成果物について、他者を誹謗中傷するもの、特定の団体・宗教・思想を過度に宣伝・賛美するもの、わいせつなもの、違法行為や反社会的行為を助長するもの、法令に違反するもの、他者の知的財産権を侵害するもの、コンピュータウィルスや不正プログラムを動作させるもの等を作成してはならないものとします。

5.情報取扱い
(1)秘密情報の非開示
参加者は、自己の非公開を望む情報、著作物、発明、アイデア、並びに、第三者から秘密保持義務を負っている情報については開示しないものとします。

(2)本イベントの撮影と情報の公開
主催者は、本イベントの実施に関して、写真やビデオを撮影し、取材し、報道その他の商業上の目的のために、撮影した写真または動画、取材内容、成果物を公開することができるものとします(新聞・雑誌・ウェブニュース等のメディアへの掲載許可を含みます)。参加者は、当該範囲においては、口述権等の著作権、肖像権、公表権、氏名表示に関する権利等の行使をしないものとします。

(3)個人情報の取扱い方針
本イベントの開催にあたって主催者が知り得た参加者の個人情報の取扱いについては以下の範囲とし、参加者はこれに同意するものとします。主催者は、参加者の個人情報を下記プライバシーポリシーに従い管理し、取り扱うものとします。
①取得する個人情報:参加者の氏名、所属、住所、電話番号、E-mail、容貌などの情報
②利用目的:以下の目的でのみ個人情報を利用するものとし、それ以外の目的では利用しない
・本イベントに関する連絡をとるため
・本イベントの会場の参加と入退室管理のため
・本イベントにおいて接続するサービス利用者に登録するため
・本イベントにおいて成果物の最終審査を行うため
・本イベントにおいて賞金や賞品を送付するため
・本イベント内容を公表するため
・本イベントと類似のイベントの案内を送付するため
③第三者への提供:提供しない
④本イベントにおける個人情報の取扱いに関するお問い合わせ窓口:
  個人情報保護管理者 富士通株式会社 
あしたのコミュニティーラボ公式Facebook:https://www.facebook.com/ashita.lab               
<プライバシーポリシー> http:jp.fujitsu.com/about/compliance/privacy/

6.本イベント終了後のフォロー
本イベントの終了後、主催者は優秀な成果物について関心のある企業とのマッチングや、概念実証、共同研究による更なるプロトタイプの開発等を、継続して行っていく場合があります。このとき、主催者及び参加者は、具体的な進め方や条件等について、誠実に協議を行うものとします。

7.免責
主催者は、本イベントの実施に関するあらゆる過程において生じた、ネットワーク、電話機、電子機器、コンピュータ、ハードウェア、ソフトウェアの不具合、異常、または不正アクセス等の第三者の行為及び参加者間のトラブル等について、一切の責任を負わず、それらによって、参加者が被った損害等について、一切責任を負わないものとします。ただし、主催者の故意または重過失による場合を除きます。

8.輸出管理
参加者は、本イベントの実施及び創出される成果物について、輸出管理に関する法令を遵守するものとします。

9.主催者による参加取り消し
主催者は、参加者が次の各号に記載する者(以下、「反社会的勢力等」といいます)に該当していると判断した場合、本イベントへの参加をお断りします。
(1)警察庁「組織犯罪対策要綱」記載の「暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等」その他これらに準ずる者
(2)資金や便宜を供与したり、不正の利益を図る目的で利用したりするなど、前号に記載する者と人的・資本的・経済的に深い関係にある者
(3)別紙記載の参加資格及び応募条件に合致しない者、主催者の業務上支障をきたす者、他の参加者に迷惑をかける者、本イベントの運営を妨げる者またはこれらの者に該当する恐れがある者

10.本イベントの中止
主催者は、天災その他の原因で、本イベントの運営上やむを得ない場合には、参加者に事前の通知なしに本イベントを中止、中断または内容を変更することができるものとします。

11.本規約の変更
主催者は、主催者において本イベントの目的のために必要と判断した場合には、本規約は参加者に事前の予告なしに変更することができるものとします。

12.その他
本規約の効力、履行及び解釈については、日本法に準拠するものとし、また本イベントに関する訴訟については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とします。その他本イベントについて疑義や取り決めにないことが生じた場合、主催者の決定をもって最終判断とするものとします。

本イベントの概要及び参加資格・応募条件

 
1.イベントの概要
本イベントの目的、開催日程等は次の通りです。 
①目的:酒蔵をシンボルに、東北の観光振興による地域づくり、東北の課題解決・魅力発信につながるアイデアを創出する
②日程:2016年2月4日(木) 10:30-19:00
③場所:東北経済産業局 仙台合同庁舎 B棟5階 5A・B会議
④参加費:無料
※会場への交通費や宿泊費は参加者の負担となります。

2.参加資格・応募条件
次の条件をすべて満たす方は、主催者指定のウェブフォームにて申込みを行ってください。
①18歳以上であること(学生可)
※未成年の方の参加については、親の同意が必要です。
②本イベントの全日程に参加可能であること
③本イベントの参加が第三者との雇用関係等の契約に違反するものではないこと
※本イベントに参加するにあたり、本規約に参加者自らが同意するとともに、参加者が所属企業(以下「所属企業」といいます)の業務の一環として参加する場合には、当該所属企業から本規約に同意を得たうえで参加するものとします。参加者が本規約に対する所属企業の同意を得ずに本イベントに参加したことにより、主催者と所属企業との間に紛争等が生じた場合には、参加者の責任において解決するものとします。
④本イベント中に、写真やビデオを撮影し、取材し、報道その他の商業上の目的のために、撮影した写真または動画、取材内容を公開等して使用されることに同意していること。また、自身が写っている写真や動画公開され使用されることに同意し、肖像権や氏名表示に関する権利、プライバシー権等の一切の行使をしないこと。

※定員に達した場合は、メンバー登録、応募を締め切らせていただく可能性があります。

3.主催者による参加者の決定
主催者は、抽選等により、本イベントに参加いただく方最大40名程度を決定し、連絡をEメールにて行います。主催者による参加の決定の連絡後は、参加の辞退はできないものとします。

4.主催者による参加者の取り消し
主催者は、参加者の決定後であっても、参加条件を満たしていなかったり、虚偽の申告があったり、もしくは、他の参加者等の迷惑や、本イベントの運営を妨げるような言動をし、またはその恐れがある場合等は、本イベントの参加をお断りすることができるものとします。

[連絡先] あしたのコミュニティーラボ公式Facebook
https://www.facebook.com/ashita.lab

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地域の知を育み、市民とともに育つ図書館へ ——長崎市立図書館の共創型図書館づくり(前編)

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司書の育成で図書館が変わる! 自らの職能を見つめ直す ——長崎市立図書館の共創型図書館づくり(後編)

4分の1が公共図書館を利用しない、という現実

日本における公共図書館の重要度を示すデータがある。2015年3月に国立国会図書館が発表した「図書館利用者の情報行動の傾向及び図書館に関する意識調査」だ。その内容を一部抜粋する。

直近1年間で、公共図書館もしくは移動図書館を使った人は「39.6%」。「1年以上前」まで含めれば、その数字は「75.8%」にまで上がるが、過去を含めて利用したことのない人が実に「24.2%」もいることを示している。なお、利用しなかった理由は「図書館に行く必要性を感じない、興味がない」(35.7%)。
公共図書館のサービスの重要度(「とても重要」「いくらか重要」と回答した人の割合)の上位3位は「本やCDなどの無料の貸出」(74.9%)、「読書や勉強をするための場所の提供」(68.1%)、「ウェブサイトでの蔵書目録などの情報提供」(62.5%)。その後は「仕事や学習に関する情報の提供」(62.1%)、「子ども向けのサービスの提供」(61.6%)と続く。

※出典 平成27年3⽉国⽴国会図書館-集計レポート- 

利用者が期待する“貸出サービス”に偏りすぎたことから、既存の公共図書館を「無料貸本屋」と揶揄する論調は、以前から存在する。インターネットの普及により、情報取得がしやすくなり、図書館に足を運ぶ人も少なくなってきている。

そんななか、最近では地域コミュニティの核を果たす“つながる図書館”が各地で増加中だ。2014年1月には『つながる図書館――コミュニティの核をめざす試み』(猪谷千香/ちくま新書)が出版され、そこでは誰もがその地域に住みたくなるような“おらがまち自慢の図書館”が紹介された。

2008年1月にオープンした長崎市立図書館も、そんな“つながる図書館”を目指す公共図書館の1つだ。九州初のPFI(Private Finance Initiative:公共施設の維持管理を民間に委託する手法)方式による公共図書館で、株式会社長崎クロスライブラリーが管理し、株式会社図書館流通センター(TRC)が運営を行っている。蔵書数は57の分館・公民館と合わせておよそ116万冊。本館だけでもおよそ63万冊と大規模だ。本の貸出サービス、読書や勉強の場、情報のストック機能など、多くの市民に期待される役割を十分に担っているといえるが、2013年頃から、同図書館では将来を見据えた「共創型図書館」の取り組みにも邁進している。

長崎市立図書館共創型図書館の構築を目指す長崎市立図書館

市民にとっての「知の拠点」にならなくては!

長崎市立図書館の下田富美子さんは、大学で図書館などの非常勤職員として活動した後、TRCに入社。開館当時から、長崎市立図書館で勤務し、2013年から運営総括責任者を務めてきた。下田さんはTRCが受託した長崎市立図書館をつくり上げていくにあたり、「図書館の価値」を見つめ直した。

「蔵書数、貸出件数、来館者数などで数値目標を立て達成率で評価することは難しい。ならば図書館の価値を何で示すかを考えた結果、利用者のみなさま・市民のみなさまに、図書館を“知の拠点”だと思ってもらうことだと認識しました」(下田さん)

下田富美子さん長崎市立図書館 運営総括責任者 下田富美子さん

図書館の価値、それ自体が見失われていることは先に述べたとおりだが、それはもとより、長崎市立図書館変革の背景には、長崎市が抱える地域課題もあった。産業の衰退、労働賃金の低下、観光地化による不動産価格の高騰、高齢化と若者の人材流出など。地域課題が顕著になるごとに、下田さんは長崎の地から「これ以上、幸せになるとは思えない」という、ネガティブな市民のマインドも感じたという。公共図書館が地域の“知の拠点”となり、市民と共に育つ共創型図書館に変わっていく——。長崎市立図書館の変革は、開館当初からの必然だった。

下田さんは図書館変革のパートナーとして、図書館の現場に、富士通デザイン株式会社(サービス&プロダクトデザイン事業部・鈴木偵之さん、同・森下晶代さん)と、株式会社メタデザイン(同社主宰・三浦健次さん)を迎え入れた。彼らデザインチームは、2013年頃から司書へのデザイン思考ワークショップを通じて、市民と共に育つ図書館をつくる共創プロセスを構築した。

そのプロセスは、図のように、段階的に理想的な共創型図書館をつくっていく取り組みで、現在も進行中だ(図1)。

共創プロセス図1 理想的な共創型図書館をつくるための共創プロセス

図書館を舞台に小学生がメディアリテラシーを考える

このうちサービスデザイン(市民に提供するサービスづくり)を考えるなかで、2013年、実験的なワークショップが開催された。「Media Literacy Workshop」(メディアリテラシー・ワークショップ)だ。図書館に地元・精道三川台小学校の5年生を招き、蔵書やタブレットを使いながら、それぞれに探究活動を行ってもらった。

ワークショップのテーマは「長崎の水族館にいるペンギンは幸せなの?」。

児童は長崎ペンギン水族館の飼育員とビデオ通話で対話をした。前年に東京の水族館を脱走し、後に捕獲された「脱走ペンギン」が話題になったこともあり、「脱走したままのほうが幸せだったんじゃないの?」「水族館にいるペンギンは狭い部屋に入れられてかわいそう……」という率直な疑問もぶつけられたという。水族館側では、ペンギンの生態に関する情報もさることながら、絶滅の危機に瀕する種の保存、そして遺伝的多様性の確保といった水族館の貢献活動を丁寧に解説。児童は水族館で飼育されることは幸せなのか、それとも不幸せなのか、1つの物事に対して多様な意見・価値観があることを学ぶきっかけを得た。

長崎ペンギン水族館多様なペンギンの生態を間近で学べるのが、長崎ペンギン水族館の魅力の1つ

水族館飼育展示課主査(学芸員)の田﨑智さんは、児童たちに「水族館が単に楽しむだけの施設なのではなく、教育や保護、研究を担う施設であること」を丁寧に説明した。ビデオ通話では、水族館のほか、市役所、町役場、民間企業などとも連携。大人たちとの対話を通じ、各自が課題を見つけ、解決策を考え、それを大人たちに伝える、そんな全3回のワークショップとなった。

同校には、6年生の課題として、1年間かけて制作する卒業論文があるという。小学校の坂井睦校長いわく「メディアリテラシーという能力は、どういうふうに情報を収集し、どうやって発表するのかが問われる。これから卒業論文を制作していく子どもたちにふさわしいものだった」。

では、子どもたちの反応はどうか。同校教諭で、このワークショップ運営を担当した馬場豊さんは次のように話す。

「それを教えたからといって、すぐに芽に出てくるものではありません。本当に学んだことが役立つのは、中学校、高校、もしかしたら、大学に進学してからかもしれない。教育とはそういうものです。それでも児童の反応を見れば、インパクト抜群だったことは間違いない。学校教育の建物のなかだけだと、どうしても生徒に制約みたいなものを感じさせてしまいますが、こうしてこれまで出会ったことのない“知”と接することで『こんなことまで言っていいんだ!』と感じることができたと思います」(馬場さん)

精道三川台小学校 校長の坂井睦さん(左)、教諭の馬場豊さん(右)精道三川台小学校 校長の坂井睦さん(左)、教諭の馬場豊さん(右)

「飛び出していく司書にならなくては!」

子どもたちからのリアクションが大きい一方で、図書館が核となり、小学校と水族館をつなげることもできた。またペンギン水族館の田﨑さんは「図書館では時期によってテーマ展示で本を紹介しており、その展示企画のなかで市民のみなさんに水族館の役割を知ってもらうこともできる。そんな価値にも期待しています」と展望する。

取材に同席いただいた長崎市立図書館の辻成美サブマネージャーは、この日、田﨑さんと今後の連携について話し合い、2人の対話のなかでは田﨑さんから「図書館にペンギンを持ち込むのは可能ですかね?(笑)」なんて仰天プランまで持ち上がった。「こうして、私たちが“飛び出していく司書”になって、人と人とをつなぎ、自律的な学びの支援をしていかなければならない」と辻さん。

田崎智さんと辻成美さん長崎ペンギン水族館の田﨑智さん(左)と長崎市立図書館の辻成美さん

下田さんが期待していることも、そこにある。下田さんは図書館変革にあたり、司書の役割を見つめ直した。「司書の役割が認められなければ、図書館の価値は上がらない。図書館の価値が認められなければ、司書の給料だって上がらない」。そのためには「司書の本来的な役割」をいっそう認知させていく必要があったのだ——。

後編では長崎市立図書館が目指す「司書の本来的な役割」と、その育成方法について、下田さんと富士通デザイン株式会社のメンバーに伺います。

(後編)司書の育成で図書館が変わる! 自らの職能を見つめ直す ——長崎市立図書館の共創型図書館づくり

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司書の育成で図書館が変わる! 自らの職能を見つめ直す ——長崎市立図書館の共創型図書館づくり(後編)

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地域の知を育み、市民とともに育つ図書館へ——長崎市立図書館の共創型図書館づくり(前編)

図書館の持つ本質的な役割は変わらない

「情報が複雑になるなかで、どうやって自分の考えを広げて考えられるか。そして、判断する軸をつくるか。図書館というメディアにおいて、本だけではなく、人の経験をかけあわせたり、対話のなかで新しい発見があったりすること。それを見つけていくのが図書館情報サービスです。みなさんと一緒に私たちも考えたい、そう思って今日のワークショップを企画しました」

この日のワークショップの趣旨をファシリテーターが説明した。長崎市立図書館の司書自らがファシリテーターを務める。2016年1月に開かれた「図書館で考える 暮らしと子育てワークショップ」の一場面で、図書館内にある「こどもとしょかん」に複数人の「お母さん市民」が集まり、世代を超えたコミュニケーションがとられた。

ワークショップ参加者の反応はどうか。

図書館のチラシでワークショップ開催を知り、2015年9月から参加するようになった伊藤成美さんは、現在育児休職中。ワークショップ参加に限らず、週に1回ほどの頻度で図書館を利用している。「これまでは基本的に本を借りる場所だったのですが、それにプラスして、ここではふだん出会えない人とのつながりが築けます。それが新しい情報にもなるので、図書館の新しい価値を感じています」。育児中であるがゆえ、外の人と接する機会がなくなっていくなかで「図書館が次第に大事な場所になってきている」とも話す。

伊藤成美さんお子さんと一緒にワークショップに参加されていた伊藤成美さん

アートプロジェクト関連のワークショップにボランティアとして参加したことをきっかけに、司書から誘われ参加した阪井紀久子さん。開館間もない頃から図書館を利用している1人だ。「私の時代は育児をするにしても、これさえ読んでおけば大丈夫、というようなバイブルがありました。しかし今は、情報が多すぎるので、お母さんたちも悩んでいると思います」。新しい価値を持つ図書館に対しては「インターネットもあるし、情報に近づく手段は変わっているけれど、図書館の持つ本質的な役割は、本当は変わらない」と感想を述べた。

阪井紀久子さん「図書館の本質的な役割は変わらない」と話す阪井紀久子さん

図書館に「組織マネジメント」を導入する

2013年の「Media Literacy Workshop」以降、ワークショップのファシリテーターを任されるのは、基本的に図書館の司書たちである。「図書館ではかねてから講演などを開催していますが、落としどころがある程度決まっている講演会などと違って、ワークショップでは参加者がどんな反応をするのかわからない」と下田さん。「市民との対話から図書館に求められる価値や機能を考える」という点でも、司書の育成にも役立っている。

長崎市立図書館では、2008年の開館に伴い、地元から職員を採用した。しかし司書の資格を持っていても実務経験が浅い人が多く、開館当初から予想以上の作業量で、それをさばくことだけで精一杯の状態だったという。

「せっかく機械の導入によって貸出・返却、本の仕分けの自動化が進んでいるのだから、司書には“人じゃないとできないこと”をしてもらいたい」(下田さん)

図書館バックヤード図書館のバックヤードでは自動化が進んでいる

そうした考えから、下田さんは開館から5年間、レファレンスサービスの向上など、司書の技術向上に注力した。その後、2013年頃からデザインチームと協働したビジョンデザイン&サービスデザインがスタートしたのだが、2015年度からは「たくさんの仕事に追われ、組織の一員という意識が希薄な状況では、新しい図書館づくりもままならない」と、組織マネジメントの強化に乗り出している。

教育的観点で注目される「サービスデザイン」のアプローチ

新たな組織では、総括責任者である下田さんのもと、サブマネージャー1名、サービスディレクター2名が配置されている。開館当時から在籍する司書の2名にも話を聞いた。

司書でサービスディレクターも務める黒岩綾香さんは、ご自身の育児の経験から、変わりつつある図書館を次のように見つめる。「自分に子どもが生まれて、これまで図書館を中心に考えていた自分の仕事が、地域・社会のなかでどんな役割を果たしていくべきなのかと思いました。社会のなかで子どもを育てていくという視点になったとき、『図書館って何だろう』と考え直したんです」。

司書の矢口育美さんは、入社以前から、海外の図書館について見聞きしていた。「自分が司書として入ったとき、思っていたものとどこか違うところがありました。そして育児休暇から戻ってきたところで、図書館変革が進んできた。図書館がこのままではいけない意識は常に自分のなかにあり、そうしたタイミングでやってきたメタデザインや富士通デザインの方々は、今まで出会ったことのないタイプの人たちだった」。

矢口育美さん(左)、黒岩綾香さん(右)開館当初から在籍している長崎市立図書館司書の矢口育美さん(左)、黒岩綾香さん(右)

図書館と共創活動に取り組む富士通デザインのメンバーも、司書の変化を感じ取っている。

「図書館はトラディショナルな世界。通常のビジネスの場では伝わるものも、従来の図書館の作法とはかけ離れていて伝わりにくい部分があります。でもリーダーを中心にどこかのタイミングで『よし、試しにやってみよう!』と気持ちが切り替わってくれたようで、意識の変化を感じます」(富士通デザイン森下晶代さん)

一方で同社の鈴木偵之さんは、共創型サービスデザインの可能性について、こう話す。

「かつてはモノのデザイン、コトのデザインといわれ、次はヒトのデザインともいわれています。では、ヒトのデザインとは何なのかというと、課題解決へのアプローチやスキルの可視化のこと。それをやっているのが共創型図書館プロジェクトです。共創型サービスデザインのアプローチはふだんのビジネスでも使っているけれど、お客さんから得られるのは『このアプローチを自社でもできるようになりたい』という反応。教育的な視点で見られているということです」

鈴木偵之さん(左)、森下晶代さん(右)富士通デザイン株式会社の鈴木偵之さん(左)、森下晶代さん(右)

ビジョン実現のための「3つのイノベーションデザイン」

長崎市立図書館のPFI契約期間は15年間。2008年1月のオープンから8年が経過した現時点は、ちょうど折り返し地点を過ぎたあたりだ。

当初のビジョンを実現するため、下田さんは「3つのイノベーションデザイン」というプランニングを持っていた。それは、図書館に限らず、あらゆる公共施設の変革に通じることがあるものだ。

○組織のマネジメント機能
現状=図書館のハコと職員を維持するために、事業が存在する(成長がない集団)
→ミッションや戦略に対し、組織・人材・予算が配分される企業体としての図書館

○新しい司書をつくる人材育成
現状=資格を拠りどころに、理念を持たない。時間に縛られる事務労働者
→司書は、常に自己評価して日々研鑽に努める。成長し続ける専門家

○図書館情報サービス
現状=情報のゲートウェイ。図書館利用の利便性向上、課題解決型レファレンスの充実
→情報から知識への内面化を支援する。知的発見を推進するサービスへ

3年の歳月をかけ、これらのプランを着々と遂行し、現在は図書館のゾーニングの見直しなども進んでいる。「やっと準備が整ったというのが正直な感想」と下田さん。そんな下田さんは、最重要視する「司書の将来像」についてこう話す。

下田さん司書の将来像について語る下田さん

「長崎のまちを元気にするために、公共図書館は「知」の資源を活かし、核となる存在でいたい。司書によるサービスの対象は図書館の利用者だけでなく、市民全体だと意識することで、もっと「知」でつながる事例が生まれてくるし、司書1人ひとりも資源として、自分の名前で仕事ができる存在になるはずですから」

『大辞林』によれば、司書とは「図書館法に基づき、図書資料の整理・保管・閲覧などに関する専門的事務を行う者」のこと。しかしこの取材をとおして感じた「これからの司書が果たすべき職能(職業に必要とされる固有の能力・機能)」は、辞書に載っているものだけとは限らない。「子どもたちが大人になるころには、65%の職業がなくなる」といわれることを鑑みれば、それはすべての仕事に言えることでもある。これからの時代に求められるのは、日々アップデートされる“職能”に対応できる人材に他ならないのだ。

司書 人と情報、人と人とをつなぎ、新しい知を紡ぎだすこと。それがこれからの司書に求められる職能なのかもしれない

地域の知を育み、市民とともに育つ図書館へ——長崎市立図書館の共創型図書館づくり(前編)

【関連リンク】長崎市立図書館

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南相馬の土着藻類が日本を産油国へ導く?——藻類バイオマスエネルギーの可能性(前編)

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後編 南相馬発、被災地から次世代エネルギー産業を ——藻類バイオマスエネルギーの可能性

再燃する藻類バイオマスエネルギーへの期待

主として水中に棲息し、光合成を行う藻類。30億年をかけて進化してきた生物で、現在わかっているだけで4万種、まだ知られていない種は少なく見積もっても30万種といわれている。その機能や含有する有用物質には未知のところが多い。

この微細な藻類が生み出すオイルを石油の代替燃料に活用できないか。そんな研究が米国エネルギー省で開始されたのは1978年にさかのぼる。二度のオイルショックを背景として、政治経済の情勢に左右され、枯渇も懸念される石油へのエネルギー依存度を下げたい。それは人類全体の悲願でもあった。米国では1996年までプロジェクトは続き、日本でも90年代から基礎研究が行われたが、コスト面で採算ラインに乗せることが難しく、事業化への期待はしぼんだ。

だが近年、藻類バイオマスは次世代の再生可能エネルギーとして再び注目を集めている。背景の1つは地球温暖化の問題だ。バイオマスは植物由来の資源なので、化石資源由来のエネルギーや製品をバイオマスで代替することで温室効果ガスの1つであるCO2の排出削減につながる、とされている。

日本のエネルギーはおよそ9割が海外からの石油燃料に頼っているのが現状だ(出典:資源エネルギー庁広報資料から編集部作成)
日本のエネルギーはおよそ9割が海外からの石油燃料に頼っているのが現状だ(出典:資源エネルギー庁 平成26年度(2014年度)エネルギー需給実績(速報、平成27年11月発表)より編集部作成)

とはいえ、トウモロコシやアブラヤシなどの陸上植物をバイオ燃料に使うと、食糧と競合するし、耕作地を広げるために森林伐採し結果的にCO2吸収源を消失しかねない。そこで、陸上植物と同じように光合成を行い、代謝産物としてオイルを生成する水中の微細藻類にあらためて熱い視線が注がれるようになった。

「大きなきっかけは2007年でした」と振り返るのは、筑波大学藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター長の渡邉信教授だ。

筑波大学 藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター長 渡邉信教授
筑波大学 藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター長 渡邉信教授

「この年、藻類の単位面積あたりのオイル生産効率が陸上植物のそれに比べると数十倍から数百倍高いことをデータで立証した論文が初めて発表され、『ネイチャー』誌が“藻類、再び花開く”という記事を掲載したのです」

欧米を中心としてブームは過熱し、年間オイル生産量を過剰に見積もり2〜3年後には実用化できるなど非科学的な憶測も乱れ飛んだ。それを反省し2010年の第4回藻類バイオマスサミットでは、主催者が「夢を語るのはいい。しかし誇張はやめよう」とクギを刺したという。

健康食品や化粧品、畜産・水産飼料など幅広い用途

渡邉教授の呼びかけで、日本でも2010年に7名の研究者と15の企業によって「藻類産業創成コンソーシアム」が発足した。現在は80社の企業が参加して、それぞれのリソースを持ち寄り、藻類バイオマスの事業化へ向けて技術開発課題に取り組んでいる。

「将来的には持続可能な液体燃料の供給源として、藻類のポテンシャルは非常に高い。世界の研究開発情勢をしっかり捉え、前のめりにならず的確な技術革新を地道に続ける必要があります」と渡邉教授は話す。

研究開発が進む渡邉研究室
研究開発が進む渡邉研究室

藻類は、燃料以外にも有益な用途が幅広い。豊富な栄養素を持つことから、最近よく知られているユーグレナ(ミドリムシ)などのサプリメント(健康食品)は、1960年代からクロレラやスピルリナといった藻類で商品化が進んできた。抗酸化作用をもつアスタキサンチンやβ-カロテイン等のカロテノイド色素を利用した化粧品も多い。世界の化粧品市場の約10%には、藻類由来の成分が含まれているそうだ。

さらに今後は、畜産・水産飼料にも藻類の適用が期待される。「血液をサラサラにする人体に有用な栄養素、DHA(ドコサヘキサエン酸)などのω(オメガ)3脂肪酸は、食物連鎖によって魚に取り込まれます。海産魚はそれをつくる酵素を持っていない。だから養殖魚はDHAなどを生成する藻類を含んだエサで育てる必要があるのです」(渡邉教授)。藻類由来の高機能性バイオプラスチックも、将来性の高い低炭素の再生可能資源だという。

土着藻類によるバイオ燃料生産で日本が産油国に?

藻類バイオ燃料の事業化に向けて、渡邉教授が手応えを感じているプロジェクトが、東日本大震災の爪痕が今も消えない福島県南相馬市で進んでいる。津波に襲われて更地になった土地を利用し、1,000㎡の培養池で複数の土着藻類からオイルを抽出する研究だ。藻類産業創成コンソーシアムが福島県次世代再生可能エネルギー技術開発事業に応募して採択され、渡邉教授が会長を務めるベンチャー、藻バイオテクノロジーズ株式会社が実証研究に取り組む。

「これまでは増殖が早くオイルの生産効率が良い特定の藻類に絞って培養していました。この方法の課題は、藻類の特性に合わせた環境条件を整え、他の藻類が増えないよう管理するなど、コストと手間がかかること。特に日本では、気温の下がる冬は藻類の成長が止まり、オイルが生産できません。そこで発想を変え、単一種ではなく、もともとその土地の気象と環境の中で適応して棲息している土着の藻類を何種類も増殖させ、大量培養する方法をとったのです」(渡邉教授)

南相馬の研究開発拠点にある培養池の1つ
南相馬の研究開発拠点にある培養池の1つ

その結果、南相馬の寒い冬でも元気に生長する土着の藻類は周年を通じてたくましく育った。生産量は1㎡あたり1日30g。研究者の間で実用化を目指す最低の条件とされている20gを軽く超えた。なんといっても年間を通じて培養できる点が大きい。

しかし問題もあった。藻類は増えたものの、抽出できるオイルは重量のわずか5〜6%。燃料生産の対象となっている各単一藻類種では30%以上なので、これではいかにも少ない。

そこで、藻類からオイルを抽出する工程で高温高圧処理する「水熱液化」の技術を採用。これによって藻類中に含まれる有機物の30〜40%をオイルとして回収することに成功した。水熱液化でできたオイルは原油と同質であることから、バイオ原油と呼ばれる。「石油が何億年もかかり生成した条件を人為的に再現するわけです」(渡邉教授)。

渡邉教授

南相馬での培養・分離・抽出・精製までの全行程にかかる製造コストをもとに、事業化を勘案して10haの培養地を想定すると、現状ではバイオ原油1リットルあたり4,100円の試算になる。肥料の代わりに下水を使って下水処理の収入も上乗せし、少ない日射量を酢酸の添加で補い光合成を活発にすると、「水熱液化で酢酸もリサイクルするなど、各工程の技術改良を重ね最高にうまくいったシナリオでバイオ原油1リットルあたり100円を切り、最悪のシナリオでも1,000円強」と渡邉教授は見積もる。「この3年間でどこに落ち着くか客観的な結論を出したい」。

渡邉教授

南相馬で低コストの大量生産モデルが確立すれば、全国各地で土着藻類によるバイオ燃料生産が新たな地域産業として成長し、再生可能エネルギー自給率が上がり日本は産油国になる。そんなシナリオも夢ではなさそうだ。

このあと取材班は、南相馬市に設立された藻類バイオマス生産開発拠点を訪問しました。被災地で進む、産業化に向けた試み。はたして、地元にどんな希望をもたらしているのか、関係者のみなさんに伺います。

後編 南相馬発、被災地から次世代エネルギー産業を ——藻類バイオマスエネルギーの可能性

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南相馬発、被災地から次世代エネルギー産業を ——藻類バイオマスエネルギーの可能性(後編)

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前編 南相馬の土着藻類が日本を産油国へ導く?——藻類バイオマスエネルギーの可能性

平均水温6℃でも生長する、驚くべき土着藻類の底力

南相馬市原町区につくられた藻類バイオマス生産開発拠点(道路右)
南相馬市原町区につくられた藻類バイオマス生産開発拠点(道路右)

福島県南相馬市原町区泉。塩害で耕作のできなくなった田畑や、家屋が流された跡の空き地が広がり、今なお東日本大震災の津波の爪痕が残る。

そんな土地の一角を利用して建設されたのが、藻類バイオマス生産開発拠点だ。福島県再生可能エネルギー次世代開発事業を藻類産業創成コンソーシアムが採択し、2013年10月から研究開発が行われている。

まだ肌寒い3月でありながら、緑色の藻類が漂う培養池。色鮮やかな藻類がこの季節に生育するのは珍しいそう
まだ肌寒い3月でありながら、緑色の藻類が漂う培養池。色鮮やかな藻類がこの季節に生育するのは珍しいそう

50m×20mの水路に撹拌機が回る。寒風吹きすさぶなか、水路の水は濃い緑色。藻類が順調に育っている証だ。前職の化学メーカーで青い色素を出すスピルリナなどの藻類を培養していた同コンソーシアム技術担当、渡邉輝夫さんは「スピルリナの生育がいちばんよいのは35℃くらい。15℃近くになると生産はストップしました。ここでは昨年12月の平均水温が6℃。それでも十分、土着藻類は生えてきます。私の経験では考えられません」と驚きを隠さない。

藻類産業創成コンソーシアム技術担当の渡邉輝夫さん
一般社団法人藻類産業創成コンソーシアム 技術担当の渡邉輝夫さん

土着藻類は種類によって季節ごとに育ち方が違う。何種類の土着藻類を培養しているか「とても数えきれない」と話すのは、研究を指導する筑波大学藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センターの主任研究員、出村幹英さん。

「近くの池をいくつか回って取ってきた水でスタートしたので、自然の池で育っているそのままの状態を移動しただけです。そこに含まれていた藻もいるし、藻類は土中にも存在し空気中にも漂っているので、後から自然に生えてきた藻もあります。イカダモなどメインのものはいくつかありますが、細かく数え出したら、おそらく何百、何千という種類が同時に育っているはずです」

筑波大学藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター主任研究員の出村幹英さん
筑波大学藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター主任研究員の出村幹英さん

同センター長の渡邉信教授が前編で述べたように、バイオ燃料として採算ラインに乗る製造コストまで下げることが目標だが、最初のハードルである「土着藻類が育つかどうか」は超えた。「コストダウンの面ではICTが有効であることが見えてきたので、うまく活用していきたい」と出村さんは語る。

というのも、本研究プロジェクトには富士通グループも参加しているためだ。きっかけは、株式会社富士通システムズ・ウエストの西川暢子さんが藻類産業創成コンソーシアムに飛び込んだことだった。東日本大震災以降、「エネルギー問題に対して何かできないか」と強い問題意識を持っていた西川さん。「自分の父が電力会社に勤めていたこともあって、エネルギー問題は他人ごとではありませんでした。ICTを活用して生産の効率化を図るなど、産業化に行き着くところまでお役に立てたらうれしい」。いまでは全社を巻き込んで、コストダウンの可能性を模索している。

藻類バイオマス事業化のロードマップ

オイルの抽出には、高温高圧化で処理する水熱液化技術を導入し、「比較的高効率でオイルになることが見えてきたので手応えを感じている」と出村さん。土着藻類を使った研究はニュージーランドで前例があるが、日本での実証実験(水熱液化の導入による土着藻類からのオイル抽出)ははじめての試みとなるだけに、事業化の目処が立つことへの期待は大きい。

藻類バイオマス生産開発拠点内の収穫棟。高温高圧化により、効率的に藻類を処理するめどが立ってきた
藻類バイオマス生産開発拠点内の収穫棟。高温高圧化により、効率的に藻類を処理するめどが立ってきた

実証研究に取り組む筑波大学発のベンチャー、藻バイオテクノロジーズ株式会社の長期展望によれば、事業化へのロードマップはこうだ。

2018年までに健康・美容用品や機能性食品・材料など高付加価値の製品で事業基盤をつくる。畜産・水産飼料や化学工業製品など安価に大量供給可能な製品の可能性を探りつつ、2025~30年を目標としてバイオ燃料が産業として成立するまで生産コストを下げる。

「燃料だけを目指していると先はまだ遠い。藻類自体には多様な可能性があるので、前段階として高付加価値の製品で事業化を図れれば」と出村さんも話している。

南相馬の子どもたちの未来に活かしたい

土着藻類からのバイオ燃料事業化は地域に新たな産業を興すことであり、地域の活性化にもつながる。南相馬市で火力発電所の水処理や産業廃物処理を受託する株式会社相双環境整備センター代表取締役の佐藤光正さんは「稲作に代わるものとして、藻の生産ができれば」と期待をかけ、藻類産業創成コンソーシアムに参加した。地元の藻類バイオマス生産開発拠点で実証研究に取り組む藻バイオテクノロジーズ株式会社に社員を出向させている。

株式会社相双環境整備センター代表取締役の佐藤光正さん
株式会社相双環境整備センター代表取締役の佐藤光正さん

「かつての養蚕業は年に6〜8回転し、稲作の合間を縫って農家の大きな収入源になっていました。年間を通じて生産できる土着藻類なら、それ以上のことができるはず。もともとこのあたりは海を干拓して開いた田んぼが多いので、津波でやられてしまうと塩害がひどく稲作ができなくなるんです」

藻バイオテクノロジーズ南相馬研究所所長の玉川雄一さんは2年前まで地元の小学校の校長を務めていた。それだけに、事業化を成功に導くことによって「地域の人材育成に活かしたい」と希望を抱く。

藻バイオテクノロジーズ株式会社 南相馬研究所所長の玉川雄一さん
藻バイオテクノロジーズ株式会社 南相馬研究所所長の玉川雄一さん

「子どもたちの未来を育てるための手段の1つになります。地元にもこんな夢のあるすばらしい事業があるんだ、となれば自信と誇りをもてる。被災地の子どもたちは、まるで土着藻のように強いですよ。最終的には子どもたちが健やかに育ってもらいたい。そのためには事業化によって親御さんの雇用を生み、地域にこのプロジェクトの意義を理解してもらう必要があります」

稲作に代わる農家の新しい事業として。人材育成につながる雇用と地域理解。それぞれの想いを胸に、地域の未来を土着藻類に託している。

震災復興を促進し福島から世界に発信できる事業

施設管理を担当する若手スタッフの河原田充さんは、農畜産資源のバイオマス利活用事業に取り組む福島市の株式会社ふくしま・みどりファームから業務委託で出向している。「大きな視野では、うまく産業化につながれば福島から世界に向けて発信できる事業ですし、足元では福島の雇用を新たに生み出し、震災復興を促進すると思います」と、このプロジェクトの可能性を語った。

一般社団法人藻類産業創成コンソーシアム 施設管理担当の河原田充さん
一般社団法人藻類産業創成コンソーシアム 施設管理担当の河原田充さん

藻バイオテクノロジーズ南相馬研究所室長の渡部将行さんは、相双環境整備センターから出向している若手スタッフ。「藻類バイオマスという今までにない、まったく新しいエネルギーの仕事ができるのは光栄です。地元の人はみんな震災で苦労したので、復興事業の一翼を担えればうれしい」と話している。

藻バイオテクノロジーズ株式会社 南相馬研究所室長の渡部将行さん
藻バイオテクノロジーズ株式会社 南相馬研究所室長の渡部将行さん

渡部さんは火力発電所の受託業務でプラント運転の経験はあるが、既存の装置や技術が藻類にどう適用できるか、確認しながらの作業が続いた。「機器がすべて揃い収穫も順調。苦労してきたことがやっと形になってきました。オイル抽出の工程で使う水熱液化の機械はまだ小さな実験段階の装置ですが、運転の知見を積み重ねて、産業化に向けたスケールアップに備えたい」と意気込む。

数えきれない多様な土着藻類だからこそ、冬の厳しい日本の風土だと単一種では無理だった年間を通じての生産が可能になった。地元の人たちも各々の想いで藻類バイオ燃料事業化のプロジェクトに挑み、コンソーシアムに参加する80社の企業も新しい再生可能エネルギーの実現に向けてリソースを持ち寄る。どこにでも無数に棲息する土着藻類。人と自然の共創プロジェクトが実を結べば、全国各地で藻類バイオ燃料による地域活性化の道が開けるに違いない。

研究所

前編 南相馬の土着藻類が日本を産油国へ導く?——藻類バイオマスエネルギーの可能性

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オープンイノベーションが生まれる“福岡”のプラットフォーム――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(1)

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福岡の関係性のなかから新たな事業を仕掛ける――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(2)
“超個人的”な理由でも、人を巻き込めばコトは立ち上げられる――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(3)

福岡だからこそできるプラットフォームを目指して

INNOVATION STUDIO FUKUOKAは、自らの周囲にある課題を起点に、創業や新規事業開発を通じた解決に意欲を燃やす多様な人たちの集まるプラットフォームだ。専門家や、「ソートリーダー(Thought Leader)」と呼ばれる特定領域の課題に取り組む先駆的な実践者がここに合流し、課題探究、アイデア創出・具現化、さらには事業化までの道程で協働していく。コペンハーゲン、アムステルダムなどとの国際連携も行い、福岡から世界に向けたイノベーション創出も図っている。

INNOVATION STUDIO FUKUOKA・ディレクター 田村大さん
INNOVATION STUDIO FUKUOKA・ディレクター 田村大さん

取材にあたっては、INNOVATION STUDIO FUKUOKA・ディレクターの田村大さんに取材をコーディネートいただいた。始動時からこの場をデザインしてきた田村大さんは、東京大学i.school共同創設者、ビジネス・エスノグラフィーのパイオニアとして知られる、イノベーション創出の先駆者。2013年、持続的にイノベーションが起きる“生態系”の研究・デザインのため、株式会社リ・パブリックを創業し、現在は福岡に移住して活動を行っている。

登場人物
今回のストーリーの登場人物

田村さんの紹介のもと、話を伺ったのは、INNOVATION STUDIO FUKUOKAの事務局を福岡市とともに務める福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka Directive Council、以下、FDC)。そして、第1回のプロジェクトとして開催された「日常の中のスポーツのデザイン」の参加者たちだ。

福岡に多様な人が集まる“装置”が必要だった

まず編集部は福岡市の中心、天神にあるFDCへ向かった。

FDCは福岡市を中心とする福岡都市圏(9市8町)を活動エリアに、地域の国際競争力を強化するために成長戦略の政策策定から実施までを行う、産学官民一体のシンク&ドゥタンク。多様な人材を惹きつける、国際競争力のある都市となるために、「MICE(会議・研修、招待旅行、国際会議・学出会議、展示会の英語の頭文字を取ったビジネストラベルの総称)」を活動の軸として、企業・行政・大学などの会員約120団体が加入する。会員はそれぞれ観光・スマートシティ・食・人材・都市再生の5テーマの部会に参画しているが、これら以外のテーマもプロジェクトやコンソーシアムに落とし込まれ、ここでも議論と実践が続けられる。

「政策立案の段階においても、それを実行に移す段階においても、行政まかせにすることなく一貫して産学官民が協働する。それが地域の課題解決、ひいては持続的な都市の成長につながると考えています」

そう話すのは、2015年4月からFDCおよびINNOVATION STUDIO FUKUOKAの事務局長を兼務する石丸修平さん。

FDCの組織形態
福岡地域戦略推進協議会のしくみ(資料提供:福岡地域戦略推進協議会)

INNOVATION STUDIO FUKUOKA開始のきっかけは、FDCが掲げる「世界各地から多様な人材を惹きつける」というミッションに端を発したものであった。

「部会のなかでグローバル化やアジアのリーダー都市としてあるべき姿を行うなかで『そもそも求めているような“高度な人材”が、福岡にやってくるきっかけをつくらなければいけないのでは?』という話に収束しました」(石丸さん)

こうして多様な人が集まる“装置”が必要であり、それは福岡を舞台としたイノベーション創出の場なのではないかという議論が活発になった。そして行き着いた着想が、INNOVATION STUDIO FUKUOKAだった。2013年秋にパイロットプロジェクトが始動。以降、2014年度に2つ、2015年度に3つのプロジェクトが実行されている。

市民と企業と行政とが協働する “希少な場面”

テーマは、地域課題や社会経済情勢の潮流に沿いながら、INNOVATION STUDIO FUKUOKAの事務局主導で設定されていく。しかし石丸さんは「テーマ設定は具体的でも漠然としていてもだめで、絶妙なバランスが必要」と話し、その点において、田村さんの豊富な経験・知見が参考になるという。

当初から計画していたプロジェクト#1~3に加え、INNOVATION STUDIO FUKUOKAに成果が見えはじめるにつれ、この「場」を活用したいという声があがった。そのオファーに応えるかたちで、福岡市内の3つの商店街と連携した〈プロジェクト商店街〉や、福岡市の新たな施策立案事業と連携した〈プロジェクト行政課題〉といった取り組みも企画・実施された。

FDC石丸さん
福岡地域戦略推進協議会 事務局長 石丸修平さん

毎回福岡内外から70名前後の応募があるというINNOVATION STUDIO FUKUOKAの参加メンバーの募集から選考までをすべて事務局で行っている。参加者の属性は30〜40代がボリュームゾーンだが、「大企業の社員もいれば、公務員、大学性・高校生もいる」。選考にあたってはテーマごとに集まった属性のバランスも取るよう工夫している。「もともとそれぞれのテーマに問題意識を持っている市民が集まることを想定していましたが、今はINNOVATION STUDIO FUKUOKAのしくみ自体に興味をもって参加をする人も増えてきました」と石丸さん。

市民と企業と行政とが自由なリサーチとディスカッションを経て協働するという希少な場面に遭遇し、価値観を変える参加者は多い。在京企業からの参加者は、福岡市民の人懐っこさと率直な物言いが、オープンイノベーションに寄与していると評するそうだ。ここでの出会いからそれぞれが持ち込んだ課題について新たな気づきを得るという。

「INNOVATION STUDIO FUKUOKAの参加を通じて、新しい着眼点やアイデアの得方を知り、相談しあえる仲間たちが増えて、もっと自分はラフに事業や新しいチャレンジに取り組めるのだと感じるようになる人が多いようです」

プログラム外の人とつながる、オープンイノベーションのエコシステムを目指して

多様な人が集まりはじめているINNOVATION STUDIO FUKUOKAにはいまや次々と事業を創発していくことが期待されているが、「このプラットフォームだけで事業化まで進めていくことは難しく、まだまだ発展途上」と石丸さんは語る。

「我々ががんばっているのは、プラットフォーム自体を動かすことだけではありません。プラットフォームを通じて新たな事業に取り組みはじめた人たちをどうサポートしていくかが課題です。ただ、FDCの会員には、アクセラレーターやファイナンスを専門とする事業者など、さまざまな企業・団体の方がいます。それらの知見を組み合わせていけば、おのずとイノベーションが創発されていくはずです。INNOVATION STUDIO FUKUOKAから生まれたアイデアが、プログラムに参加していなかった人にもつながるようなエコシステムをつくっていかなければいけない」

FDC石丸さん

そんな石丸さんのFDCやINNOVATION STUDIO FUKUOKAでの活動には、地元に込めた思いがある。石丸さんは福岡県筑豊地方の飯塚市出身。経済産業省に入省後、2013年に福岡県に戻り、5月からFDCに参画することとなった。

「行政も大企業もみんな東京に集中していて、意思決定をするにも東京に行かざるを得ない状態。福岡で新しいかたちをつくって、地域でガバナンスを効かせ、現場のことを現場に近いところで意思決定するしくみがあれば、地方都市から日本や世界を変えていけるはずです」

地元を愛する石丸さんの思いが、福岡からイノベーションを生み出すプラットフォームの原動力になっている。

産学官民で進められるINNOVATION STUDIO FUKUOKAの活動。そこには、参画するメンバーの福岡に対する愛情と「もっとよい地域にしたい」思いがこもっている。熱い思いがあるからこそ活動は前に進んでいくのだ。次は、実際に活動している参加者に話を聞く。

福岡の関係性のなかから新たな事業を仕掛ける――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(2)
“超個人的”な理由でも、人を巻き込めばコトは立ち上げられる――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(3)

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INNOVATION STUDIO FUKUOKA
福岡地域戦略推進協議会
株式会社リ・パブリック

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福岡の関係性のなかから新たな事業を仕掛ける――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(2)

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“超個人的”な理由でも、人を巻き込めばコトは立ち上げられる――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(3)
オープンイノベーションが生まれる“福岡”のプラットフォーム――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(1)

考え方を変えて、イノベーターになる必要があった

森山暎子さんは、#1プロジェクト「日常の中のスポーツのデザイン」の卒業生の1人だ。

2010年10月から、お昼休みの“10分間”でできる運動として「10分ランチフィットネス(R)」の普及に向けたテストを福岡市内ではじめた。2012年には一般社団法人10分ランチフィットネス協会を設立。10分ランチフィットネスの活動は、福岡市との協働事業として、福岡市内の公園や駅前、企業などで出前レッスンが開かれ、これまで延べ8,000人以上が参加するなど一定の成果を得ていた。しかし森山さんは課題を抱えていた。

一般社団法人10分ランチフィットネス協会 代表理事 森山暎子さん
一般社団法人10分ランチフィットネス協会 代表理事 森山暎子さん

「運動やスポーツのとらえ方も人それぞれです。“フィットネス”と聞くだけで嫌がる人もいる。10分ランチフィットネス(R)の普及を考えた場合、運動という言葉の定義づけをはっきりさせ、それを共有して進めていく必要があります。フィットネス業界で働く人だけで話し合うと、知識は深まりますが、新しい視点が生まれづらく変化は起こりません。価値の見直しを含め、私たちが考え方を変え、イノベーターになっていく必要がありました」

新たな知見による考え方を学び、自ら経営するフィットネスクラブに新しい風を入れたいと、九州大学大学院統合新領域学府「ユーザー感性学専攻生」として、勤労者の運動実践のきっかけづくりとして「10分ランチフィットネス(R)」を考案、調査研究を開始。そうした活動を続けるなかでINNOVATION STUDIO FUKUOKAに出会った。

3つのイベントと、3つのフェーズ

森山さんが参加した、#1プロジェクト「日常の中のスポーツのデザイン」は、3つのフェーズが設けられ、各フェーズには、Uncover、Inspire、Exchange、という3つのマイルストーンとなるイベントが組み込まれている。

登場人物
プログラムは3つのフェーズに分かれる(写真提供:福岡地域戦略推進協議会)

「Uncover」(2015年9月13日〜15日)は、元プロ陸上選手・為末大さんら、“ソートリーダー(Thought Leader)”と呼ばれる実践的な先駆者によるインプットの時間と、“リサーチ&フィールドワーク期間”で構成される。そこから、持ち込んだ課題のテーマごとに合計10チームが組成され、森山さんはこのうち「(10)継続チーム」に参加した。なお、プロジェクト期間中はチームの再編成は自由に行える。

チーム編成

「継続チーム」では「スポーツを継続している人は自分なりのスケッチ(編集部注:形や方程式などの意味)を持っているのではないか」という仮説を設定。同じことを何年も続けている人たちからヒントを探った。

インサイトの組み合わせで“継続のカギ”を確認できた

約10名で構成されたチームメンバーは、「度が外れるくらいに何かを続けている人たち」をインタビュー対象に設定した。たとえば、365日、毎朝同じ時間に霊園近くの公園でラジオ体操をやっている高齢者の方や、代々続く博多人形師の家系に属す方、ウルトラマラソン(一般的なフルマラソンを超える耐久マラソンの総称)のランナー、ウォーキング実践者……といった面々だ。

株式会社正興電機製作所 経営統括本部 有吉大助さん
株式会社正興電機製作所 経営統括本部 有吉大助さん

株式会社正興電機製作所から参加した有吉大助さん。同社で経営統括本部に在籍する有吉さんは、同社が福岡地域戦略推進協議会(以下、FDC)の人材部会に参加していたことが縁で、#1プロジェクト「日常の中のスポーツのデザイン」に加わることになった。インタビュー中の発見を以下の様に話す。

「運動の延長ではなく、違うところに継続のカギがあった。たとえば、ウォーキングの人も、ベストとか帽子をたくさん持っていて、それを着たいという思いが継続のモチベーションになるように。そうした1つひとつのインサイトの組み合わせで、『あれ、共通する継続のカギってこれだよね』とメンバー間で確認ができたんです」

同じチームでインタビューを行った森山さんも「もらったコメントに対しての捉え方がメンバーごとに違う。インタビューを終えた後にメンバーで話すのがいちばんおもしろかった」と振り返る。

事業化に向けたプログラム構成とは

リサーチ&フィールドワーク(フェーズ1)を終えると、メンバーはアイデアを磨き上げるためのワークショップ「Inspire」(2014年11月29日~30日)に参加する。ここでもソートリーダーとしてソニーコンピューターサイエンス研究所・遠藤謙さんのほか、起業コンサルタントや弁理士などが活動に参加し、参加者にアドバイスやサポートを行う。

「Inspire」を終えてからはプロトタイプ&テスト(フェーズ2)がスタート。約2カ月間にわたり、アイデアの事業化に向けた試作品・試作サービスの検証が行われた。

その後は中間レビューを経て、2015年2月14日の「Exchange」で各チームが事業化に向けたプランを発表。そこからスケールアップ&スケールアウト(フェーズ3)、すなわち事業化に向けた具体的なアクションに突入することとなる。

新たな接点が新しい価値をつくりだす

森山さんと有吉さんは現在、「Exchange」で発表したそれぞれのプランをアイデアの事業化に向けた仮説・検証を繰り返している段階だ。

プロジェクト期間中、有吉さんが行き着いたテーマは「“笑い”の数を数えるシステム」。活動を通じて「人間の感情が一番大事なのではないか」という考えに行き着き、企業、高齢者施設、ひいてはブライダル関連の婚活イベントなど、多方面の分野での事業プランを社内の新規事業として立ち上げた。

一方、もとは10分ランチフィットネス(R)という1つのパッケージを広めることをテーマに参加していた森山さんの場合、「フィットネスをそのまま1つのパッケージとして売っていくのはなかなか難しい」との結論に至った。そこで現在は勤労者を対象に、企業の中の“休憩の時間”をどのように過ごしてもらうか、地域の大学とも連携しながらその考え方を広めていこうとしている。

「現在進行している事業化のプロジェクトをわかりやすく言えば、“休憩時間のデザイン”です」

有吉さんも同じテーマ、同じチームのなかで活動するにつれ、森山さんの活動に共感するようになった。こうして、調査・研究を正興電機製作所と一緒に行う運びとなり、事業化に向けた協働の歩みが着々と進められている。

休憩時間に行われる10分ランチフィットネスの様子
休憩時間に行われる10分ランチフィットネスの様子(写真提供:株式会社正興電機製作所)

「正興電機製作所を大きくしていくことはもちろんですが、“健康経営の福岡版”のようなかたちで広がっていくことが、いちばんの願い。東京をモデルにしているわけでもなく、これが福岡の健康経営のかたちだよ、ということを示していきたいです」と有吉さん。

もとはほぼ接点のなかった2人が新規事業に向けて協働する。そうした形態も、INNOVATION STUDIO FUKUOKAから生まれる“場づくり”の1つのようだ。

ふだん生活するなかでは見えなかった個人の「課題」や「思い」がINNOVATION STUDIO FUKUOKAを通じて顕在化し、新しい価値を生み出そうとしている。森山さんと有吉さんのようなきっかけがここには詰まっている。そんなきっかけが生まれ続ければ、地域にも良い循環が生まれるのではないだろうか。最終回は、そのきっかけをつかみ、新たな価値を世に問おうとしているINNOVATION STUDIO FUKUOKA卒業生のエピソードをお届けする。

“超個人的”な理由でも、人を巻き込めばコトは立ち上げられる――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(3)
オープンイノベーションが生まれる“福岡”のプラットフォーム――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(1)

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“超個人的”な理由でも、人を巻き込めばコトは立ち上げられる――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(3)

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オープンイノベーションが生まれる“福岡”のプラットフォーム――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(1)
福岡の関係性のなかから新たな事業を仕掛ける――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(2)

自身の背景をもとにプロジェクトに参加

「教育コンテンツの開発と、プロダクトの開発。PLAceはその両面から教育というカテゴリーにアプローチしています」

PLAce株式会社の久保山宏さんは、学生時代から塾講師を務め、公民館などで理科実験教室等を行う学生団体を主宰していた。九州大学大学院工学府物質プロセス工学専攻の博士課程を修了後は工学の道には進まず、子どもの将来や社会につながる学びを模索すべく教育の世界へ飛び込んだ。

PLAce株式会社 久保山宏さん
PLAce株式会社 久保山宏さん

2015年にPLAce株式会社を立ち上げ、現在は中学・高校の授業カリキュラムや、子ども向けの体験ワークショップの設計などに従事する。そして、その一方ではじめた幼児向けのおもちゃ開発が、INNOVATION STUDIO FUKUOKAから生まれたプロダクトだ。

#1プロジェクト「日常の中のスポーツのデザイン」の最初のフェーズにおけるUncoverイベントで久保山さんは「子どものスポーツと学び」のチームに参加した。自身が2児の父親であることも背景にあり、「親子の運動」をテーマにリサーチ&フィールドワークを実施した。

遊びのプラットフォームを開発したい

親子の関係性が、子どもの運動に歯止めをかけてしまうのではないか。そんな仮説を持った久保山さんのチームは、スポーツ指導をする親などへのインタビューを通じて「子どもの運動を促す“第3の存在”がある」というインサイトを得た。

「運動教室の若手インストラクターのような存在です。成長する第3の存在がいることで、親子の運動にほどよい刺激が生まれ、3者が一緒に成長していく。しかも、第3の存在は人に限らないかもしれない。そこで集団遊びに発展したり、遊び自体も成長したりする、そんな遊びのプラットフォームになるツールを開発したいと思いました」

現在試作中のプロダクトは、ボード、バンド(ジョイント)、デジタルモジュールの組み合わせキット。子どもたちはこれでトンネルや家などの空間を組み立てることができ、LEDライト、スピーカー、センサーなどのデジタルモジュールで遊びを拡張できる。すでに保育園やイベントなどで実証実験を進めている。

「デジタル系の教育教材となるとほとんどがタブレット端末のアプリ。だけどタッチするだけでは動作が単調だし、ディスプレイに縛られるのは嫌。組み立ておもちゃもたくさんあるけれど、集団遊びにはなかなか発展しない。もっと集団的・身体的に遊ぶことを促したい」

オーナーシップがないと事業化に発展しない

INNOVATION STUDIO FUKUOKAに参加した2014年9月当時、久保山さんは独立後間もない頃だった。当時の仕事のクライアントの経営者とともに参加したが、最初はイノベーションスタジオのプロセスそのものを勉強しようという軽い気持ちだったという。

しかしプロトタイピングの段階に進むと、アイデア自体をおもしろがるクリエイターも参加し、次第に久保山さんも熱を帯びてきた。当初は決して乗り気ではなかった久保山さんも、このときには製品化まで発展させることを考えはじめていた。

INNOVATION STUDIO FUKUOKA アシスタントディレクター 岡橋毅さん
INNOVATION STUDIO FUKUOKA アシスタントディレクター 岡橋毅さん(写真右)

最終のプラン発表の場であるExchangeで発表した現在のプロダクトの原型は、踏むことで光るパネルを組み合わせ、遊びのフィールドをつくるというもの。ソートリーダーである為末大さんから評価も高く、同じくソートリーダーの一般社団法人マザー・アーキテクチュア代表理事の遠藤幹子さんは、卒業後も、久保山さんにアドバイスを送ってくれる。田村さんや遠藤幹子さんの紹介もあって、児童館やデジタルベンチャーの人たちと出会う機会も得た。

「活動のなかでは、オーナーシップがなくては事業にならないと感じました。正直、地域に対する思いはそこまで強くないけれど、自分には4歳と1歳の子どもがいる。彼らは学校教育を受け、普通に考えれば、高校までは地元の学校に通うでしょう。だったら、自分が仕掛けられる範囲で活動し、自分の子どもがよりよい教育を享受できる世界を福岡につくればいい。そんな“超個人的”な理由も、ここではいろいろな人を巻き込んでやっていくことができるんです」

持続する“型”をどうデザインするのか

INNOVATION STUDIO FUKUOKA・ディレクターの田村大さんは、INNOVATION STUDIO FUKUOKAで目指すところは、“シリコンバレー型”ではないと話す。

#1プロジェクトの集合写真
#1プロジェクトの集合写真(画像提供:(C)Re:public)

「豊富な人材を吸引するしくみがあり、激しい競争を繰り広げ、勝ち残った人が大きな市場を手に入れる。それによって新たな人材が惹きつけられるという循環がまわっていく。それが“シリコンバレーの勝ちパターン”です。僕が実現したい“福岡型”のイノベーションは、シリコンバレーのモデルとは異なる。自分たちの生活をよりよいものにしていきたいという意思を持った市民が、自らが起こす事業を通じて、その願望を叶える。こういった運動が面として広がっていくことで、自分たちの手で社会をよりよいものに変えていくことが当たり前になる。INNOVATION STUDIO FUKUOKAはそんな文化を育てていくプラットフォームです」

では、そんなプラットフォームをつくるには何が肝となるのか。

「絶え間ない内と外の触発と交流がカギになると考えています。プロセス自体は奇をてらったものではありません。しかし、このプロセスに積極的に加わってくれるソートリーダーなど、外からの参加者、そして自分の手で課題を解決し、変化の担い手になろうとする意欲的な市民の双方に恵まれています。だから私たちは『市民を育てる、エンパワーする』というだけではなく、市民が外の人材とつながり、双方の知識や経験が融合して化学変化を起こし、新しい価値をつくりあげる環境を整えることに知恵を絞っているんです」

市民、先駆者、行政、ファシリテーターなど、立場を超えた人たちが集うINNOVATION STUDIO FUKUOKA。多様な人同士の化学反応が続いていくことで、福岡がイノベーション先進地としてさらなる注目を集めていくに違いない。

オープンイノベーションが生まれる“福岡”のプラットフォーム――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(1)
福岡の関係性のなかから新たな事業を仕掛ける――INNOVATION STUDIO FUKUOKA(2)

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INNOVATION STUDIO FUKUOKA
PLAce株式会社
株式会社リ・パブリック

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【座談会】なぜ、企業・大学でアイデアソンが求められているのか? ——大分大学アイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」を終えて(前編)

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【座談会】地域の“調和”を担う触媒としての大学へ ——アイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」を終えて(後編)

〈座談会司会〉
黒木昭博さん/株式会社富士通総研 第一コンサルティング本部 産業・エネルギー事業部 シニアコンサルタント
〈座談会参加者〉
市原宏一さん/国立大学法人大分大学経済学部 学部長・教授
本谷るりさん/大分大学経済学部准教授 
馬場鉄心さん/豊の国優良住宅推進協議会 代表(日本ハウジング株式会社 代表取締役社長)
冨川慎吾さん/ 〃 加盟企業(株式会社玉井木材センター 代表取締役社長)
中野康平さん/大分大学経済学部(3年、当時)
原遼太郎さん/ 〃(1年、当時)
林 昌輝さん/ 〃(1年、当時)

大分の大学教育が抱える課題とは?

富士通総研 第一コンサルティング本部 産業・エネルギー事業部 シニアコンサルタント 黒木さん
富士通総研 第一コンサルティング本部 産業・エネルギー事業部 シニアコンサルタント 黒木昭博さん

黒木 大分大学経済学部では、授業プログラムの一貫として、共創プログラム「ソーシャルイノベーションワークショップ」を開催しています。2015年10月には、株式会社大分フットボールクラブ(大分FC)とのアイデアソンを実施。今回は「県産材を使った新たなプロダクト・サービスをIoTで考える」をテーマに掲げ、アイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」を実施されたわけですが、そもそも大分大学経済学部がこうした共創プログラムに取り組まれているのはなぜなのか、市原学部長からその背景をお話しいただけますか。

大分大学経済学部 学部長・教授 市原宏一さん
大分大学経済学部 学部長・教授 市原宏一さん

市原 かねてから大学が教育として何を柱に置くべきなのか、という議論がありました。

考えてみてください。これまで大人たちは散々、学生たちに「勉強しろ、勉強しろ」と言ってきたわけです。しかし学生たちにすれば「じゃあ、なんで勉強するのか」、それに対して大人は「自分で勝手に見つけ出せ」。そんなことが、長らく繰り返されてきました。

私は勉強する意義は「体験」から得られると考えています。体験することで勉強の必要性を感じます。そして必要性を感じないと勉強ははじまらないものです。こうしたアイデアソンを通じ、学生は商品・サービスとして社会へ流用させることまで考える。そこで生じた現実とのギャップを埋めて世のなかに通用するものにするべく、大学に戻ってきてまた勉強する——。それがこの共創プログラムのメインテーマだととらえています。

黒木 アイデアソンには企業・学生・教職員の立場から40名以上が参加し、私も企画運営やファシリテーターの立場で参加させてもらいました。

学生さんはいかがでしたか? 中野さんは、大学で林業をテーマにした論文を執筆中とのことですが……。

大分大学経済学部3年(当時) 中野康平さん
大分大学経済学部3年(当時) 中野康平さん

中野 僕はやっぱりフィールドワークが印象深いですね。普段は資料や論文を調べたり、パソコンに向かったりすることが多くて、直に木に触れたのは今回がはじめてです。ものづくりの現場に足を踏み入れ、木材の良さを体感できたことがいちばんの収穫でした。

黒木 林さんはどうですか?

大分大学経済学部1年(当時) 林 昌輝さん
大分大学経済学部1年(当時) 林 昌輝さん

 僕にとっては、大分トリニータ、2015年度のあしたラボUNIVERSITY神戸大会に続き、3回目のアイデアソンでした。初のアイデアソンは他の人のアイデアに完全に乗っかるかたちでしたが、2回目はアイデアオーナーになりました。今回のアイデアソンも、1回目と同様、他の人のアイデアに参加したのですが、結果的にはチームのなかで自分の意見を伝えたことで、発表アイデアでは自分のアイデアも盛り込むことができました。

アイデアソンに参加すると、自分に足りないものがよく見えるんです。どの回でも、そのときどきで自分の立場や課題を確認することができましたし、向き・不向きを再認識することで、自分の果たすべき役割を見つめ直すことになります。

黒木 すっかりアイデアソンの成果を感じ取っているみたいですね。

 今後もアイデアソンには積極的に参加したいですね。ふつうの授業では絶対に体験できませんから。こういう取り組みは学生に敬遠されがちで、参加学生も全国的に見ればまだまだ少ないかもしれませんが、これがもっと当たり前になるように僕もなんらかのかたちで貢献したいです。

黒木 今度は企画の立場で携わってみてもおもしろいかもしれませんね。教職員の立場からはいかがでしょう? 本谷先生は市原先生と同様、運営者として携わっていますが、何人かのゼミ生がアイデアソンに参加しました。

大分大学経済学部准教授 本谷るりさん
大分大学経済学部准教授 本谷るりさん

本谷 私も運営者の立場からゼミ生の活躍を見守っていましたが、学生たちがこんなことを考えていたんだ、という発見がいくつもありましたね。ふだんの授業とぜんぜん違います。こうした形態の授業の意義を、イチ教員として感じました。

人材育成に必要なのは“失敗の体験”

黒木 学部長のお立場から、市原先生は今回のアイデアソンをどのように感じましたか?

市原 私は、こうした授業でのいちばんの意義は「失敗をさせること」だと思うんです。大学はそういう教育をこれまでしていませんでした。通常の勉強は「これやって、次はこれやって……」というふうに“組み立てていく勉強法”ですよね。何のためにそれをやっているのかわからなくても、なんとかなってしまう。途中が抜け落ちていても気づかない。そうしたことに自覚を持ってもらうのが、大学教育ではアイデアソンになっていければいいと思います。

黒木 私も企業人ですが「イノベーションが必要」「新しいものを生み出す」ということは、企業のなかに共通認識としてあると感じます。しかし最初からそれを成功させようと思っても、なかなかうまくいかないものです。試行錯誤が必要だとわかってはいても、その経験値が足りず、失敗を避け、最後のところだけやりたがる……。失敗する経験が圧倒的に足りないというのは、企業人の立場からもとても理解できるお話です。

市原 日本ハウジング株式会社の馬場社長からも事前にそういうお話を伺っていました。自発的な社会人が増えてほしいけど、なかなかそうもいきません。そのすべてを大学でなんとかできるわけではないですが、人材育成の面からも、社会人を養成する大学機関にお手伝いできることがあれば、と思っています。

豊の国優良住宅推進協議会 代表(日本ハウジング株式会社 代表取締役社長) 馬場鉄心さん(中央)は、地域産業における「県産材」の可能性をもって、アイデアソンへの参画を決めたという
豊の国優良住宅推進協議会 代表(日本ハウジング株式会社 代表取締役社長) 馬場鉄心さん(中央)は、地域産業における「県産材」の可能性をもって、アイデアソンへの参画を決めたという

黒木 そのためには何より、学生がアイデアソンに参加するに至るモチベーションが必要になると思います。私が印象的だったのが、学生さんから「熱中するものを見つけた」という意見が多いことでした。たしか原さんもそう言っていたよね?

大分大学経済学部1年(当時) 原遼太郎さん
大分大学経済学部1年(当時) 原遼太郎さん

 はい。部活動でも、大会という目標をチームで共有しながら、個人が成長するという目標がありますよね。アイデアソンはそれに似ていると思います。アイデアに人が集まって、試行錯誤しながらゴールを目指す。その過程でお互いを高め合うこともできる。それが夢中になった要因かな、と思います。

黒木 原さんは今回のアイデアソン、どんなことを感じましたか?

 フィールドワークで何を感じ、どんな問題があるのか認識することが大事だと思いました。最初のアイデアで最後の発表までいけることなんてめったにありませんが、最初のアイデアのときに何を成し遂げ、どんな利益を社会・個人にもたらしたいのか考えることは大事です。アイデアはゴールに向かうための方法に過ぎず、1つに限られているわけでもない。方法が何個も答えとして出てくるから、よりいいものを導き出せる。そのためにも、フィールドワークが肝心なんだと感じました。

黒木 そう。課題解決には、いろいろな通り道があるんです。何を提供するのか、そして、どんな価値が生まれるのか。その考えを忘れずに挑んだからこそ、各チームとも最後の発表までたどり着けたのだと思います。

県産材を使ったIoTサービスが創発された

黒木 今回創発されたアイデアは、木とテクノロジーを組み合わせ、新しいモデル・プロダクトをつくるというものでしたが、「県産材」というテーマを持ち込んだのは、豊の国優良住宅推進協議会代表の馬場さんです。テーマオーナーとして馬場さんはどう思いましたか?

豊の国優良住宅推進協議会 代表(日本ハウジング株式会社 代表取締役社長) 馬場鉄心さん
豊の国優良住宅推進協議会 代表(日本ハウジング株式会社 代表取締役社長) 馬場鉄心さん

馬場 ゼロからイチをつくる発想がみなさんすばらしかったですね。グランプリに輝いたアイデア*は、一般的な人が「木って気持ちいいよね」と思うところに目を向け、それから先の展開力がどれだけあったかというのが受賞の理由だと思います。“モッククライミング”は、本当に山のことを考えたアイデアでした。

(*編集部注:アイデアソンでグランプリに選ばれたのは、木製ボルダリングのIoTサービス。“ロッククライミング”ならぬ“モッククライミング”の進路・手足の置き場をウェアラブル端末でアシストするというものだった)

黒木 アイデアをつくる側は、どんなことを意識しましたか? 受賞は逃しましたが、中野さんはチーム「木団」で木製グラス「nomoue」というプロダクトを考えました。県産材でつくったグラスがbluetoothでスマホアプリと連動し、お酒のほどよい割り方や前日に飲んだお酒の量などを教えてくれる、非常にユニークなアイデアでしたね。

中野 発表のときはあまり詳しく言えなかったのですが、自分は経済学部ですから、県産材にいかに付加価値をつけ、林業の収益を確保するか、をテーマに考えていました。お酒を飲む体験のおもしろさはもちろんですが、そこだけに焦点を当てるのではなく、高級路線にしたのもそんな理由からでした。

馬場 私たちもハウスメーカーですが、家を売るときは“地元材”を売りにしないんですよ。当たり前に選んだ結果が、地元に循環されるようにしないといけない。だから県産材を売りにせず、高級路線をとったことはビジネスとしても的を射ている。発表のときに言っていれば、結果も違ったかもしれないね(笑)。

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中野 でも「nomoue」というプロダクトをつくったことはとても楽しかったです。自分にはものづくりの技術はないけれど、もしも「nomoue」を商品化できる機会があるのなら、今度は僕が企業との橋渡し役として活動していきたい、そう思っています。

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大学を中心に地元産業と学生とが出会い、課題解決を模索したアイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」。大学や企業にとってはユニークな人材育成の場として、在学生には自らの実力を試す貴重なチャレンジの場として、またとない機会となっていたことがうかがえる。では、この取り組みを“ローカル”という視点で問い直すと、どのような価値が見えてくるのだろう。後編では、地域社会における大学のあり方、地元産業などとの共創による地域課題へのコミットメントの可能性について深掘りしていく。

【座談会】地域の“調和”を担う触媒としての大学へ ——アイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」を終えて(後編)へ続く

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